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「どうすれば農業はもうかる産業になるか?」  農協愛友会が総会・講演会

 JAグループ全国連や関連企業の幹部役職員やOBでつくる農協愛友会(会長:前田千尋)は4月18日、東京・大手町のアーバンネット21で第54回通常総会・記念講演会を開いた。講演会では農水省農林水産政策研究所の武本俊彦所長が記念講演を行った。

◆「組合員の幸せづくりに貢献したい」前田会長

 前田千尋会長 前田千尋会長は会の1年間の活動目標として、今年が国際協同組合年であることから、「今後ますます、協同組合運動の基本理念である相互扶助、自立互助の気持ちが大事になってくるだろう。当会としてもますますJAグループの各団体と連絡を密にして、組合員、利用者の生活の安定と幸せづくりに貢献していきたい」と抱負を述べた。
 総会では平成23年度の決算や24年度の事業計画を採択し、世話人・会計幹事などを選任した。世話人・会計幹事の変更はなし。会員数は会員が4減って82(正会員72、賛助会員12)、会友は2増3減で156(ともに24年3月31日現在)となった。

◆農業の輸出産業化は困難

農水省農林水産政策研究所の武本俊彦所長 武本氏の記念講演は「日本経済と食料・農業・農村の展開」がテーマ。
 戦後、日本が高度経済成長を果たし経済大国となったのは、貿易立国路線を推進したからであり、その意味では「自由貿易の最大の受益者だった」が、円高、石油・食料危機、バブル経済の崩壊などを経て日本とアジアの経済環境は一変したことを解説。中でも1980年代以降の急激な円高によって「日本の輸出産業の国際競争力は著しく低下した。特に食料、農業分野は価格競争力で不利を被っている」として、TPP推進論者が掲げる「農業の輸出産業化」は困難だと述べた。
 そうした経済状況の変化の中で「農業は儲からない産業になった」と農業が衰退した原因を指摘し、どのようにして農業を儲かる産業に変え、農村を再生するかについて提言した。

◆努力しても稼げない 日本農業の構造

 武本氏は、欧米の農業従事者の世代構成が、やや高齢者の割合が多いもののほぼ全世代ともバランスよく配分されている一方、日本では35歳未満がわずか3%で65歳以上が61%と極端に高齢化が進んでいる異常な状態であることを紹介し、「少なくとも努力すれば儲かる産業でなければ、親は子どもに継がせようと思わない。日本の農業は、平均より上の能力を持っている人でも、経済環境や制度、法律などの問題で稼げない構造になっている」と説明した。
 その上で「稼げない構造」の要因として、農業所得がここ20年間で6.1兆円から3兆円へと半分に減った一方、中間投入額は7.6兆円から6.8兆円へと約1割しか減っていないことを例に挙げ、農業生産全体の中での加工・流通業ウエイトが高まると同時に円高などを背景にした輸入品が入ってきている現状を指摘。
 あわせて、バブル崩壊以降20年ほど続いているデフレによる非正規雇用の増加で、全体の賃金が減り、低価格志向が高まったものの、生産現場に最終的な価格決定権が無いため、価格引き下げの圧力に従わざるを得ない状態であることも挙げた。

◆6次産業化を進める人材育成が急務

講演会の様子。武本氏へは「再生可能エネルギー」についての質問などが会場から出た。 こうした現状分析を踏まえて、農業を儲かる産業に変え、農村を再生するためには、[1]直接支払制度、[2]食の安全と消費者の信頼確保、[3]農山漁村の6次産業化、の3点を軸に「国産農産物に対する国民からの信頼の再構築と、地域での人材育成が大事だ」とした。
 特に[3]については、「デフレへの対抗策となり、経営リスクを分散するためにも絶対に必要」だとして、大規模経営から加工・流通を取り込んだ多様な農業経営まで対応できる経営者の育成、地域での異業種の連携や融合、農業・農村への再生可能エネルギー産業の導入、などを新たな視点として取り入れることが急務だと提言した。

(写真)
講演会の様子。会場からは「再生可能エネルギー」への参入をどう進めるか、などについて質問が出た。


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