農政・農協ニュース

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【いま、「協同」が創る2012全国集会】 協同組合がいかに社会に貢献するか

 第10分科会のテーマは「国際協同組合年に日本の協同組合が問われていること〜公共・協同・自治で拓く持続可能な社会〜」。医療生協、ワーカーズコープ(労働者協働組合)、NPO法人、労働金庫などが、それぞれの活動報告をもとに日本の協同組合のあり方、進むべき方向を討議した。

◆介護から子育て、就労支援まで

「日本の協同組合のあり方」で討議する第10分科会 愛知県で地域の人々とともに医療活動を行っている南医療生協の成瀬幸雄専務は、延べ6000人の意見・ニーズを反映した病院建設とその運営について報告。「医療・福祉は病院という施設の中だけではない。地域が施設だ。利用者の班をつくり、それらのネットワークを利用し、介護難民を絶対出さないようにする」と述べた。
 九州・沖縄で仕事おこし・地域づくりで活動するワーカーズコープ、労協センター事業団九州沖縄事業本部の星平順子さんは、児童デイサービスによる子どもの居場所づくり、その保護者の就労支援、子どもたちによる米づくりなどの事業を報告。「働くことを通じて、地域社会の矛盾や問題を明確にしていくことが大切だ」と、労働によって地域に協同の輪を広げることの必要性を強調した。

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「日本の協同組合のあり方」で討議する第10分科会

◆協同組合基本法の制定も課題

 NPO法人の活動では、日本に住む外国人の自立支援を行っている、ふじみの国際交流センター(埼玉県)の石井ナナエ理事長は、生活や子どもの悩みごと相談、日本語教室や通訳、就労支援などの活動を紹介。「国際交流を通じて、お互いが共生できる地域社会づくりを目指す」という。
 ワーカーズコープもNPO法人も事業を起こすための資金が必要に。協同組合金融の立場なる、近畿労働金庫地域共生推進部の法橋聡部長は、「協同組合の理念を掲げ、地域でお金を回すメカニズムをつくりたい。労金は次の社会をつくるためのバックヤードのような機能を目指す」と、協同組合金融の役割を強調した。
 また市民セクター政策機構の澤口隆志理事長は、「統一協同組合法」がなかなか実現しないことに関して、政府の怠慢を批判するとともに、主体である協同組合陣営の力量不足も指摘。「新旧の協同組合が、それぞれ自らの問題として主体的にとらえて運動しなければ実現しない」と奮起を促した。
講演するジョンストン・バーチャル教授 このほかパネルディスカッションでは、協同組合の共益と社会的な公益の関係、政治的中立の真の意味、合併による大型化に伴う組合員のつながりの希薄化への対応―などの問題提起があった。
 なお分科会では、世界経済危機への協同組合の対応について国連のアドバイザーを務める英国・スターリング大学のジョンストン・バーチャル教授が記念講演した。同教授の講演論旨を紹介する。

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講演するジョンストン・バーチャル教授

◆利益ではなく組合員のニーズの実現

 (1)協同組合の特異性、(2)協同組合は「共益」を「公益」にできるか、(3)格差を解消できるか―について述べる。
 国際協同組合運動は現在、グローバル市場の競争下にある。それに対して協同組合は集団化・クラスター化しつつある。なぜか。それは単独では生きることができないからだ。
 協同組合は3層のケーキのようなもの。地区、地域、そして全国レベルと3層になっている。しかし今日、中間をなくし、地区と全国だけになった。そしてさらに変化し、全国組織だけになりつつある。欧州では協同組合銀行、農業協同組合などがそうだ。中央化され、大きな力を持つようになった。しかし、中央協同組合化あるいは国際化すると、地区レベルの組織が取り残される。これは協同組合が中央の組織をコントロールできなくなるということだ。
 ただ、こうした動きがプラスの動きにもつながっている。協同組合にメンバーシップについての新たな提言・意見が出てきたことと、協同組合の特異性が意識されるようになってきたことだ。各国の協同組合のホームページなどで、この面の記述が増えている。これはグローバル化への批判という意味でよい傾向である。
 このなかから、環境問題や女性問題など新たな社会運動への問題意識が高まってきた。またインターネットやソーシャルメディアの発達によって、組合員が参加しやすくなっている。これを協同組合が優れたビジネスモデルであることを示すチャンスとしたい。
 協同組合の目的は利益の最大化ではなく、組合員のニーズに応えることである。このことが協同組合の特異性として新世代の経営陣に認識されつつある。アメリカとイギリスで「お金を移そう」というキャンパーンが行われている。預金を資本主義の象徴の銀行ではなく、協同組合組織に移そうということで、大きな運動になっている。

◆「公益」は協同活動の副産物

 次に「共益」と「公益」、格差の解消について。協同組合が貧困や失業問題を直接解決しようとすれば、貧困者に限定され、コストが大きくなる。また公益に重点を置くと組合員の利益無視につながる。異論があるかも知れないが、協同組合は、まず共益に貢献し、余裕を公益に回すべきだ。つまり公益とは協同の副産物だと考えている。
 ヨーロッパでは協同組合による共通課題解決の例がある。農協が農業者の所得向上を図ることによる農村経済の保護と、同時に協同組合銀行による中小企業への融資による失業の防止などだ。われわれは達成できることに対して現実的でなければならない。期待は「熱すぎず、冷めすぎず、ちょうどよく」だ。それぞれのタイプの協同組合には異なる目的があり、その本質的な目的へ重点的に取り組むことによってのみ成功につながる。


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