農政・農協ニュース

農政・農協ニュース

一覧に戻る

【いま、「協同」が創る2012全国集会】 民でも公でもない「連帯経済」が21世紀の社会をつくる

 JAや生協、労働者協同組合など各種の協同組合で実行委員会を構成した「いま、『協同』が創る2012全国集会」が11月17、18日に埼玉県大宮市で開催された。
 20世紀後半から、経済や社会の中で、民間企業でも公的機関でもない、第3機関(サード・セクター)の存在が注目されるようになってきた。このサード・セクターは、人と人とのつながりや地域社会での連帯、また、市場経済だけに依拠しない新たな経済活動などを基盤にしていることから、「社会的経済(Social Economy)」や「連帯経済(Solidarity Economy)」と呼ばれ、新自由主義や市場経済至上主義への対抗軸として期待されている。第4分科会では、フランスの経済学者ジャン=ルイ・ラヴィル氏による解説を基にアジアでの連帯経済の発展が議論された。

◆「民・公・非営利組織」の認識は不十分

ジャン=ルイ・ラヴィル氏(フランス国立工芸学院教授) 欧州では、サード・セクターの役割やその定義付けなどを研究する専門機関として、1996年にEMESネットワーク(欧州の社会的企業研究ネットワーク、本部ベルギー)が設立された。ラヴィル氏はこのネットワークのメンバーであり、欧州の社会的経済研究の第一人者でもある。
 ラヴィル氏によると、北米ではこのサード・セクターを「非営利組織」として捉え、組織が得た利益を組合員に分配しているという理由で、協同組合や共済組合などをサード・セクターとしない考え方が一般的だという。
 それに対して、古くから、協同組合や地域コミュニティのような市民同士の連携による独自の経済活動が行われてきた欧州では、「単に非営利組織という括りでは不十分だ」との批判から、社会的経済の概念が生まれた。
 ラヴィル氏は、サード・セクターの定義を「利益を分配しない組織」とする北米的な狭義の考え方を批判。営利か非営利か、ではなく、資本制組織か社会的経済組織か、を判断基準にすべきだと指摘した。
 欧州では、サード・セクターには「慈善活動やボランティア活動であるかどうかではなく、社会問題を気にかける市民による助け合いと、その市民の自主的な参加に基づく集団活動であること」が求められているという。
 社会的経済の考え方では、サード・セクターの中には非営利組織だけでなく、協同組合、共済組合なども含まれる。なぜなら、社会的経済というのは▽利益よりも構成員やコミュニティへのサービスを優先する、▽自主的な経営と民主的な意思決定プロセスがある、▽資本よりも人とその労働を重視して収入を分配する、という原則の下で経済活動を営むすべての組織が含まれるからだ。

(写真)
ジャン=ルイ・ラヴィル氏(フランス国立工芸学院教授)

◆より民主的、人間的な多元的経済

ラヴィル編『連帯経済』(生活書院、2012年) この社会的経済を、さらに発展させたのが「連帯経済」の概念だ。
 連帯経済では、市場原理だけでなく多元的な経済原理に基づいて経済活動が行われる。
 ラヴィル氏は、「経済を市場と同一視するというイデオロギーをもっと薄くし、より現実的な観点で考える」べきだと指摘。その「現実的な観点」とは、[1]市場、[2]非市場経済、[3]非貨幣経済、という3つの経済原理の混在だ。
 ラヴィル編『連帯経済』(生活書院、2012年=右)によると、[2]の非市場経済は「再分配」の原理に基づいている。主に公的機関が徴税などの形で富や物を集めてから必要なところに還元し、使い方も規定していくことを指す。[3]の非貨幣経済とは、例えば家政など賃金を介さない、「互酬性」に基づく活動のこと。人と人とのつながりに依拠し、公共空間での自由で平等な市民活動を意味する。
 この3原理が混在することで、これまで市場原理でのみ定義されてきた経済活動が、民主主義的・人間的な営みになる。
 こうした解説を受けた島村博氏(協同総合研究所主任研究員)は、「連帯経済の原則に基づけば、協同組合が自らの組織の発展だけでなく、地域貢献を使命としなければならないことも自ずと理解できる」とした。なぜなら、連帯経済には地域社会の存続・発展のための事業興しが求められているからだ。特に「地域に雇用を生む活動が大事」だとした。

◆韓国は5年間で1兆ウォン投資

第4分科会のコメンテーター、発表者ら。 ラヴィル氏の理論は、欧州での協同組合や非営利組織の活動を基にしているが、アジアではどうだろうか。
 香港理工大学講師の鄒崇銘氏は、1970年代からの鄧小平の経済改革で農村に生産責任制(政府が指定した一定量の農産物を生産すれば、それ以上は農業者が自由に販売できる制度)が導入されて以降、「協同組合は時代遅れ、という悪いイメージが定着。農村コミュニティの相互信頼や連帯が破壊された」と指摘。さらに2000年代以降、特に地方では役人やエリートが褒賞金目当てに協同組合をつくり「少数エリートのみが恩恵を受けている」のが現状だという。
 韓国漢陽大学の金鍾杰教授は「2007年7月の社会的企業育成法成立を契機に社会的企業(Social Enterprize)が発展してきた」という。社会的企業とは、社会的使命を大切にし投資家や株主への利益配当を行わない組織のことで、農協、生協、信組などの協同組合もここに含まれる。
 「法制定以降、実に5年間で1兆ウォンもの予算を投じ、社会的企業の発展を促進したが、結局は脆弱階層の人々の給料になっただけだ、という批判もある。しかし、韓国は元々福祉国家ではなく、国民の中に社会サービスとか、助け合いという意識はなかった。その点からすれば、この5年間で『社会的企業』や『協同組合』という言葉が市民権を得て、社会や人間に対する認識が変わったことは大きい。こうした意識変革を見れば、5年間1兆ウォンなどという投資は安いものだ」と結論。
 さらに連帯経済が発展するためには「政府が、中央集権的社会から地方の連帯性を強化する方向に転換していくビジョンを示す必要がある」と提言した。
 日本からは茨城県常総生協副理事長の大石光伸氏が実践報告。
 協同組合運動発展のためには、「生産者、消費者、職員の3者がそれぞれ公平で自立していることが大事。生産者が度を過ぎた利益を求めたり、消費者が職員に対して雇ってやっているという意識を持ったりしないよう、3者をまとめあげる常任役員の力量が求められる」とした。
 ラヴィル氏は、「20世紀の経済は国家と市場に重きが置かれていたが、21世紀はサード・セクターの比重が増えるだろう」として、その中では「地域社会の中で人と人とのつながりを深める必要がある。アジアで連帯経済、社会的企業、協同組合が発展することを期待したい」とエールを送った。

(写真)
第4分科会のコメンテーター、発表者ら。


(関連記事)

【いま、「協同」が創る2012全国集会】 資本主義システムは生き残れるか 水野和夫・埼玉大学客員教授(内閣官房内閣審議官) (2012.11.20)

【いま、「協同」が創る2012全国集会】 人間復興のコミュニティを (2012.11.19)

【全国集会 2日目の分科会より】 「救済」でなく「ともに働く」社会の形成に向けて (2012.11.19)

【全国集会 2日目の分科会より】 協同組合がいかに社会に貢献するか (2012.11.19)

(2012.11.20)