米国、70年に1度の大干ばつ
バイオエタノール政策の見直しも
◆6月以降、降雨なし―米国のコーンベルト
トウモロコシの大産地である米国の中西部では6月以降、高温・小雨傾向が続き70年に1度ともいわれる大干ばつに見舞われている。
米国農務省(USDA)によると8月26日現在、作柄を表す「優+良」の比率はトウモロコシが「22」(前年同期54)、大豆が「30」(同57)で24年ぶりの低水準だという。
米国農務省は8月、今年のトウモロコシの生産見通しを約2億7400万tと7月よりもさらに下方修正した。昨年の生産量は3億1400万tだから4000万tもの減産となる見込みだ。大豆は7300万tで昨年よりも1000万t減の見込みである。
8月の需給見通しでは世界全体のトウモロコシ生産は2012/13年期には8億4900万tとなる見込みだ。これに対して消費量は前年よりも減少するものの8億6100万tで、消費量のほうが生産量を上回ることになる。期末在庫率は14.3%と前年よりも下がる。
世界最大のトウモロコシ生産国である米国のこうした不作を受け需給がひっ迫するとの見通しから、国際価格は6月以降高騰し始め、7月20日に1ブッシェル(約25.4kg)あたり8.25ドルと08年の高騰時の記録を更新した。
その後、さらに高騰し8月10日には8.49ドルと再度高値を更新する事態となっている。大豆も同様に9月に08年の高値記録を更新。小麦は世界の在庫水準に問題はないが、トウモロコシに代わる飼料原料として需要が高まり、いわゆるトウモロコシ相場に追随する“連れ高”となり4年ぶりの高値となっている。
◆需給ひっ迫基調の時代
世界の穀物相場は2007年から2008年にかけて高騰した。その時の理由は欧州や豪州での不作のほか、世界の人口増加や新興国の経済発展による食料需要の増大などが指摘された。さらに燃料用エタノール需要の拡大に加え、地球温暖化など気候変動も今後の食料生産の不安定要因になるとされ、世界は食料の過剰時代に終わりを告げ、食料不足時代に入ったことが強調された。
実際、トウモロコシの国際相場は長く1ブッシェル2ドル台がそれこそ“相場”とされていたが、現在ではその3倍の水準となっている。08年秋のリーマンショックで一度は価格が下がったものの、10年以降、再び上昇し始めており、今回はそこに米国の不作で価格がさらに高騰してきた。天候異変は今後も考えられる。4年前に強調されたように世界の食料需給は基本的にひっ迫基調にあることを改めて認識すべきだろう。
◆トウモロコシの需給はどうなっているか
それを米国農務省の世界の需給見通し(2012/13年)から改めてみてみよう(掲載グラフすべて)。
今回、価格が高騰しているトウモロコシの生産は米国と中国で半分以上を占める。国内需要も米国と中国で同じように世界の半分以上だ。
一方、輸入量は年間1500万トンを輸入する日本が最大輸入国でメキシコ、韓国などと続く。これらの国へ輸出するのは、米国が最大シェアを占め、そのほかはアルゼンチン、ウクライナ、ブラジル。南アフリカの輸出量はごくわずかのため、トウモロコシの輸出国は米国をはじめ4か国に限られている。
需給見通しで注目されるのが、新穀が収穫される前にどのくらい在庫量があるかを示した期末在庫率だ。前述したように米国農務省は世界全体でも14.3%との見通しを示した。
期末在庫率については国連食糧農業機関(FAO)は穀物全体で消費量の2か月分の17〜18%を安全水準としている。トウモロコシを含む飼料穀物は15%程度だ(小麦は25〜26%、米は14〜15%)。したがって、14%台という数字はすでに安全水準を下回っているということになる。
ただし、FAOが示したこの安全水準は1974年。当時の食料危機を受けて示されたものである。
そこで穀物輸送のインフラなどが整備された現在にあっては穀物在庫の流動性は当時より高まっているため市場に出てくる、だからこの水準は必ずしも適正ではなくもっと低くてもいい、といった考え方も最近では出ていた。しかし、果たしてそうだろうか?
流動性失う世界の穀物在庫
日本では備蓄の拡充が必要
◆在庫の半分は中国に
今回、グラフで示したのは在庫をどの国が持っているか、である。これを見れば分かるように、実は世界のトウモロコシ在庫のうち中国の抱えている量が半分近くを占める。米国についで需要量の多い中国は自国の消費のために在庫を積んでおり、それは備蓄政策を中心とした国家管理のもとにある。したがって世界の穀物市場に出回る流動性のあるものではないと考えると、世界のトウモロコシの期末在庫率は7〜8%程度だとみるべきだろう。
大豆、小麦、そして米についても中国の在庫が占める割合は高い。農水省が8月末に公表した海外食料需給レポートによると、米国の干ばつを受けて中国の国家糧食局は備蓄トウモロコシと米を中国国内向けに放出するとの通知を出したとされているが、時期や数量などは不明だという。
また、08年の価格高騰の一因ともなった輸出規制の動きも再び出てきた。ウクライナでは乾燥被害による減産が見込まれ、農業政策当局は年間輸出予定数量の8割を超えた場合は輸出規制を発動する取り決めを同国穀物業界団体と結んだといい、ロシアも含めて輸出規制をめぐる論議が再び起き始めている。このように世界の穀物はかつてより流動性は高まっているどころか「むしろ流動性を失っている」とみるべきだとの指摘は多い。
◆バイオ燃料政策に厳しい目
また、トウモロコシの需給がひっ迫する要因のひとつには米国のバイオ燃料政策もある。米国は再生可能エネルギーの使用量を法律で義務づけたことから、エタノール向けの需要量が増大した。食料だけではなく燃料にもトウモロコシが使われるようになったことからトウモロコシの需要構造は大きく変化した。現在、生産量の4割もエタノール向けとなっている。
今回の不作を受けて米国では飼料用のトウモロコシをブラジルから輸入するような状況でこれに畜産関係団体が不満の声を上げ、国会議員も含めて再生可能燃料基準の削減や見直しを政府に求める動きも出ている。
また、FAOのダシルバ事務局長は8月に米国は食料危機を回避するためにバイオ燃料政策を見直すべきだと提起し、法律の一時停止を求めた。しかし、ヴィルザック米農務長官は「変更する必要はない」と発言したと報じられるなど米国政府に見直す動きはない。 ただ、今回は米国内の畜産農家からも要求出ていることから今後の対応が注目される。
JA全農、産地多様化 ブラジルからも輸入
備蓄在庫の機動的な使用も必要
◆集荷力強化で安定供給
こうした厳しい需給状況のなか、日本の畜産農家に飼料を供給しているJA全農では飼料原料の安定供給を図るための多様な取り組みを進めている。
その基本は子会社である全農グレイン(ZGC)とCGB社が米国中西部での集荷力と保管能力の増強を図ることで、これまでに集荷施設の買収などを実現してきた。
これに加えて西海岸での供給先を確保するため、約30万人の組合員を組織する全米最大の農協連合会であるCHS(セネックス・ハーベストステーツ農協連合会)と23年度に提携した。これによってニューオーリンズからだけでなく西海岸からの輸送も実現している。
◆国際的な農協連携の意味
また、アルゼンチン農協連合会(ACA)と提携し同国からの輸入も進めているが、昨年は新たに全農グレインとの合弁会社を香港に設立した。これは中国を始めとするアジアへの全農グレインとAACAらの北半球および南半球からの通年供給による取扱量拡大をめざすものだが、それは施設の稼働率の向上とわが国の飼料原料の安定確保にもつながることになる。
同様の考え方で米国の農協連、CHSはウクライナに集出荷施設を設置したという。CHSにとっても組合員の生産するトウモロコシを米国からだけでなく、ウクライナからも供給できる体制をつくれば国際的な販売先の安定供給のニーズに応えることができるとの考えからだ。これによってCHSと提携しているJA全農はウクライナからのトウモロコシ調達も行っている。
こうしたACAやCHSの戦略は自らの組合員の農業生産を守ると同時に顧客のニーズにも対応したもの。販売先の多様化と安定供給を実現する体制をつくることで自国の生産を守り、あるいは他国の穀物も扱うことで供給者としての信頼を得、それを自国の生産と販売の確保つなげるという取り組みだといえる。
このような国際的な農協組織連携のほか、全農はブラジルからも積極的な輸入を始めている。これらの取り組みを通じてJA全農は、来年の米国での作柄が確定するまでの間、飼料用トウモロコシなどの輸入量の約半分を米国以外から調達することを進めている。将来的にも需給動向に機動的に対応できるよう、米国での集荷力強化と産地の多元化方針を継続する。
◆備蓄政策の充実も課題
飼料用原料のこのような産地多元化を図ると同時に、トウモロコシ以外へのシフトも課題となる。麦類やマイロなどの調達、エタノール生成後のトウモロコシの搾り滓(DDGS)の利用、さらには飼料用米の生産拡大と利用も日本の畜産にとっての課題だ。
その一方、産地の多元化にともなう輸出入での問題も起きているという。たとえば、ブラジルから輸入しようと一気に集中することで港湾で積み出しまでに時間がかかるなどの混乱も起きているといい、それによって計画どおりに日本に到着しないといった問題も起きかねない。
こうした事態になれば国内での飼料安定供給にも影響が出る可能性もある。そこで求められるのが飼料用穀物(トウモロコシ・マイロ)の備蓄だ。この備蓄には政府も予算措置を講じているが、事業仕分けによって23年度末までにこれまでの60万t(約17日間)から20万t(約6日弱)へ予算を削減すると決められた。そこに東日本大震災が発生し、国は35万tを放出した。これを受けて24年度は備蓄量を40万tとする予算要求も出されたが、結局は20万tに引き下げられた。
震災のような緊急事態はもちろんだが、現在のような世界的な需給ひっ迫や輸出国での混乱なども考えると、飼料穀物備蓄のあり方を検討する必要があり、JAグループは飼料穀物の備蓄を60万t水準で確保するよう要求してきている。
世界の食料事情が厳しくなるなか自国での農業生産の増大が求められるのはもちろんだが、食料の安定供給には安定的な飼料原料の調達、備蓄の拡充なども課題となっていることを改めて認識しなければならない。
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