【近藤康男・TPPから見える風景】通商協定ごとに政策を作るのか?!2017年7月20日
◆合意ありきの、政治的"大枠合意"
7月6日、予定通りブリュッセルでの第24回日・EU定期首脳協議首脳声明で、日欧EPAの"大枠合意"が宣言された。しかしその声明は、TPPなどが地域の貿易拡大を通じた経済成長や雇用の増加をうたったのと趣を異にし、政治的なモメンタムを強調するものとなった。英国離脱後のEUの不安定化、加盟国ドイツでのG20を目前に控えた日・EUは共に自由貿易の価値をうたう必要があったし、日本は首席交渉官会合を控えTPP11への機運を必要としていた。
合意ありきの政治的"大枠合意"であり、収斂の見えない投資仲裁の先送りを始め、物品関税を除けば、ほとんどが年内合意を目指して最終の詰めを残したままの"合意"だった。
岸田外相とマルムストロ-ム委員が、自民党代表団到着前に、"大枠合意を確信"と宣言したこと、安倍首相が、首脳協議後の記者会見で「国内対策」に言及、続いて農業団体と面会したことに言及して、"出来レ-ス"だとした報道もあった。
◆政府は、通商協定締結の度に農業政策を作り直すのか?!
安倍首相は7月14日、関係閣僚を招集して「TPP等総合対策本部」の初会合を開き、日欧EPA"大枠合意"を受けて国内対策の策定を指示した。報道で紹介された首相の言葉は、いわく「成長戦略の切り札だ」「保護主義の流れの中で日・EUが自由貿易の旗を高く掲げる」「巨大な経済圏でアベノミクスの新たなエンジンが動き出す」「政府一体となって総合対策を策定する」(7月14日付け日経)。通商協定や経済対策としては違和感を拭い切れない、空虚な(と言いたい)政治スロ-ガンが並んでいた。
筆者は、メディアがアベノミクスという言葉を濫用することは報道としての知的退廃だと思っている。脱線を容赦いただけるなら、マクロ経済学者の浜矩子さんの"アホノミクス"も少々品が無いので、"アベNo!ミクス"、"アベコミックス"と呼ぶことにしている。経世済民と言いうる実績が無いだけに、14日の発言のように、常に"新たなエンジン"を必要とし、手を変え品を変え新たな旗印を立て、"やってる感"を演出しているだけなのだ。
昨年のTPP批准の臨時国会で「TPP関連政策大綱」を策定、今年の通常国会で農業関連の8本の改正法案を通したばかりだ。農業以外では規制改革推進会議は今年も5月23日に答申を首相に提出、5月30日には政府が「未来投資会議」に成長戦略を提示している。この中の極めつけはいわゆる"レギュラトリ-サンドボックス(規制の砂場)"="企業提案による(地域を問わない})規制の凍結"だ。
◆日欧EPAの影響を"プラス"に出来るのか?
山本農水相は今回の「大綱」策定に当たって、「対策を打つことで日欧EPAの影響がプラスとなるようにしたい」と語っている。しかし農業分野におけるTPPから日欧EPAに至る交渉と国内対策を改めて考えると、通商交渉における戦略が欠落しているが故に国内対策を策定する羽目となり、またその国内政策が大局観を欠落しているために短期間に再度策定せざるを得ない状況に陥っていると言わざるを得ない。
日欧EPAで目立つ"持続的な再生産を可能にする国境措置を確保した"という政府の説明はあまりに空虚だ。TPPで公表された影響試算の数字が日欧EPAの"TPP並み"で単純に範囲を拡大させ、チーズなどのTPP以上の譲歩が問題を深刻化させることは否めない。脱粉・バタ-の無税枠の設定を、政府は「最近の追加輸入量の範囲内」と説明するが、経営不安による生乳生産の減少による輸入増であることに目をつぶっている。チーズの低関税枠拡大(+16年目に関税撤廃)を政府は「国内消費動向を考慮し、国産の生産拡大と両立できる範囲に留めた」と説明する(いずれも7月6日外務省公表「日欧EPAファクトシ-ト」)。しかしチ-ズ用の乳価は脱粉・バタ-用や生クリ-ム用に比べ加工原料乳としては最も安い。そのためチ-ズ工房は生乳確保が思うように出来ず、生産ラインは頻繁に停止しているとも言われている(7月11日農業新聞)。
ス-パ-でデンマ-ク産のカマンベ-ルが税抜き278円/100gで並んでいたので買ってみた。あまりおいしくなかったが、日本の大手メ-カ-の価格で概ね350円/100g前後、EPA発効前で既に相当の価格差だ。
今回、チーズは"大枠合意"をするためのカ-ドとして最後まで残されたようだが、酪農の現場やチ-ズ生産の現場への打撃を考えると、そのこと自体に怒りを禁じ得ない。
(関連記事)
・日欧EPA"大枠合意"の風景(17.07.06)
・官僚の屁理屈と思い違い(17.06.22)
・他国と比べても著しい知る権利・民主主義の劣化(17.06.08)
・並行して進む4つの通商交渉を制御出来るか?(17.05.25)
・海図なき?"TPP11"、安倍政権の通商政策(17.05.11)
・南アフリカの旅で"Divide分断"を考える(17.04.20)
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】ホウレンソウにクロテンコナカイガラムシ 県内で初めて確認 神奈川県2024年12月23日
-
【注意報】カンキツ類にミカンナガタマムシ 県内全域で多発 神奈川県2024年12月23日
-
24年産新米、手堅い売れ行き 中食・外食も好調 スーパーは売り場づくりに苦労も2024年12月23日
-
「両正条植え」、「アイガモロボ」 2024農業技術10大ニュース(トピック1~5) 農水省2024年12月23日
-
多収米でコメの安定生産・供給体制を 業務用米セミナー&交流会 農水省補助事業でグレイン・エス・ピー ①2024年12月23日
-
多収米でコメの安定生産・供給体制を 業務用米セミナー&交流会 農水省補助事業でグレイン・エス・ピー ②2024年12月23日
-
香港向け家きん由来製品 島根県、新潟県、香川県からの輸出再開 農水省2024年12月23日
-
農泊 食文化海外発信地域「SAVOR JAPAN」長野、山梨の2地域を認定 農水省2024年12月23日
-
鳥インフル 米アイダホ州、ネブラスカ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月23日
-
農林中金 当座預金口座規定を改正2024年12月23日
-
農林中金 変動金利定期預金と譲渡性預金の取り扱い終了2024年12月23日
-
「JA全農チビリンピック2024」小学生カーリング日本一は「札幌CA」2024年12月23日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」栃木県で三ツ星いちご「スカイベリー」を収穫 JAタウン2024年12月23日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」大分県で「地獄めぐり」満喫 JAタウン2024年12月23日
-
「全農親子料理教室」横浜で開催 国産農畜産物で冬の料理作り JA全農2024年12月23日
-
「愛知のうずら」食べて応援「あいちゴコロ」で販売中 JAタウン2024年12月23日
-
Dow Jones Sustainability Asia Pacific Indexの構成銘柄7年連続で選定 日産化学2024年12月23日
-
「東北地域タマネギ栽培セミナー2025」1月に開催 農研機構2024年12月23日
-
NTTグループの開発した農業用国産ドローンの取り扱い開始 井関農機2024年12月23日
-
北海道立北の森づくり専門学院 令和7年度の生徒を募集2024年12月23日