【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】従順な日本がグローバル種子企業の世界で唯一・最大の餌食にされつつある~種子と関連問題の再整理~2018年9月21日
問 種子法の廃止。鈴木さんはこの決断について、どう思われますか?
鈴木 国民の命を守る安全保障の観点からは間違っている。
グローバル種子企業の世界戦略とは極めて整合性が取れている。命の源の基礎食料(中でも特にコメ)、その源の種は、安全保障の要。国として、県として、いい種を安く供給し、生産と消費を支えるのが当然の責務。それをやめて、企業に任せろ、というのが種子法廃止。
グローバル種子企業の世界戦略は種を握ること。種を制するものは世界を制する。種を独占してそれを買わないと人々は生きていけなくすれば、巨大なビジネスとなり、人々を従属させられる。
だから、公共種子の提供を後退させ、最終的には自家採種を禁じて、自分たちのものにして、遺伝子組み換え、F1(一代雑種)化して、買わざるをえない状況を世界中に広げてきた。それを日本でもやりたい。それに日本は応えている。 公共種子事業をやめ(種子法廃止)、国と県がつくったコメの種の情報を企業に譲渡させ(農業競争力強化支援法)、自家採種は禁止する(種苗法改定)という3点セットを差し出した。一連の改定をセットで見ると、意図がよく読み取れる。
全農の株式会社化もグローバル種子企業と穀物メジャーの要請で農協「改革」に組み込まれた。Non-GMを分別輸入するのが目障りなので、買収しようとしている(協同組合だと買収できないので日米合同委員会で米国から指令)。
消費者庁は「遺伝子組み換えでない」という表示を実質できなくする「GM非表示」化方針を出した。これもグローバル種子企業からの要請そのまま。しかも、消費者庁の検討委員会には米国大使館員が監視に入っていたという。
カリフォルニアではGM種子とセットのラウンドアップ(除草剤)で発がんしたとしてグローバル種子企業に320億円の賠償判決が下ったが、日本は昨年12月25日、クリスマス・プレゼントと称して、ラウンドアップの残留基準値を極端に緩和した。 さらに、ゲノム編集(切り取り)では、予期せぬ遺伝子喪失・損傷・置換が世界の学会誌に報告されているのに、米国に呼応し、GMに該当しないとして野放しにする方針を打ち出した。
以上、特定のグローバル種子企業に「便宜供与」の「7連発」
(1)種子法廃止
(2)種の譲渡、
(3)種の自家採種の禁止
(4)non-GM表示の実質禁止
(5)全農の株式会社化
(6)ラウンドアップの残留基準値の大幅緩和
(7)ゲノム編集を野放しにする方針
インド、中南米、中国、ロシアなどは、国をあげてグローバル種子企業を排除し始めた。従順な日本が世界で唯一・最大の餌食にされつつある。病気になった日本人に合併先企業の人間の薬も売れて「ダブル儲けの新ビジネスモデル」との声も漏れている。
すでに野菜の種は9割が海外圃場で、その一部はグローバル種子企業の受託生産になっている。今回のコメ・麦・大豆で日本における種の支配はラスト・ステージに入った。
「陰謀説だ。そんなことはない、大丈夫だ」という人たちに言いたいのは、これは「世界における歴史的事実で、同じことが日本で進んでいる」という明快な現実である。様々なカムフラージュでごまかそうとしても、事実は揺るがすことはできない。
問 政府は既に役割を終えたとして種子法を廃止しましたが、これに県レベルで対抗しようという動きも出ています。新潟県、兵庫県、埼玉県は、種子法廃止前と同じように種子の生産・供給ができるよう、条例を制定。こうした動きは全国に広がる可能性もありそうですが、どうご覧になっていますか? JA、生協、NPO法人等からなる「日本の種子(たね)を守る会」は新たな種子法制定を目指し、活動を行っていますが。
鈴木 山田正彦先生を中心とした皆さんの尽力に衷心より敬意を表するただ、県が引き続き事業を展開できたとしても、関連法(農業競争力強化支援法)に、国と県がつくったコメの種と情報を企業に譲渡せよ、と書いてある。
平昌オリンピックでイチゴの苗が勝手に使われたと大問題になったのに、コメの種はグローバル種子企業に渡せ、とわざわざ法律で指示する異様さ。これを停止しないと流出する。
また、昨年11月に種子法廃止に先立って出された都道府県向け通知には、わざわざ、県は事業を継続していいが、それは民間企業に事業を引き継ぐまでの間だ、と指示している。
県と国の担当者レベルでは継続できるとの文面で合意したが、「上」からの鶴の一声で「民間に譲渡するまでの間」と入れられてしまった。農水省の担当部局は頑張っているが、オトモダチを儲けさせるための「上」の強い意思で、ハナから方向性は決められている。予算カットとか各種の卑劣な圧力で県は締め付けられるだろう。これに負けない覚悟が求められる。
問 種子法の廃止と同時に成立した法律があります。農業競争力強化支援法です。民間の参入を促す「攻めの農業」。果たして、功を奏すのか?
鈴木 まず、法律の要点は、「中抜き」すれば儲かる、農協を使うな、これだけ。
農家が強い買手と交渉するための共同販売、生産資材の共同購入、これをやめて、農家は個別取引しろと。いま、小売の取引交渉力が大きく、農産物は買いたたかれている。共販がこれ以上崩れたら、農家はもっと買いたたかれるが、小売・流通企業は儲かる。それが狙いだ。「強化法」でなく「農業弱体化法」だ。 それから、「攻めの農業」、企業参入が活路、というが、既存事業者=「非効率」としてオトモダチ企業に明け渡す手口は、農、林、漁ともにパターン化している。
H県Y市の国家戦略特区で農地を買えるようになった企業はどこか。その社外取締役は国家戦略特区の委員で、自分で決めて、自分の企業が受注、を繰り返している。国家「私物化」特区だ。
森林の新しい法律は、H県Y市と同じ企業とがバイオマス発電で「意欲のない」人の山を勝手に切って燃やしてもうけるのを、森林環境税までつぎ込んで手助けする。
漁業権の開放は、日本沿岸の先祖代々、生業を営んできた「水域を有効に活用していない」既存の漁業者の生存権を剥奪して大規模養殖をやりたい企業に漁業権を付け替える法改定。気づいたら、予期せぬ海外のオトモダチに日本沿岸の制海権を握られ、企業参入だ、民間活力だ、と言っているうちに、いつの間にか、外国に日本が乗っ取られる。
「攻めの農業」の本質は、既存の農家が潰れても、特定のオトモダチ企業が儲けられるお膳立てができればいい、というだけだから、かりに、少数の企業が利益を増やしても、国民に全体として必要な食料を供給するという自給率の視点は欠如している。自給率は間違いなく下がる。すでに食料自給率は「死語」になりつつある。
武器による安全保障ばかり言って、食料の安全保障の視点が抜けているのは、安全保障の本質を理解していない。農業政策を農家保護政策に矮小化させてはいけない。
食料・農林水産業政策は、国民の命、環境・資源、地域、国土・国境を守る最大の安全保障政策だ。
「食を握られることは国民の命を握られ、国の独立を失うこと」だと肝に銘じて、国家安全保障確立戦略の中心を担う農林水産業政策を、政党の垣根を超え、省庁の垣根を超えた国家戦略予算として再構築すべきである。 国民を欺き、犠牲にして、日米のオトモダチ企業と我が身を守ろうとするリーダーにリーダーの資格はない。我が身を犠牲にしても国民を守ってこそリーダーである。
(注:9月16日テレビ討論用発言メモから抜粋)
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】 記事一覧はこちら
・「強い農業」は災害に「弱い農業」? ~9月10日(月)テレビ収録用質疑資料~(2018.09.13)
・類似の手法に注意 ~畜安法・森林管理法・種子法・漁業法をめぐる類似性~(2018.09.06)
・欧米農政への誤解(2018.08.23)
・現場の農家・漁家を苦しめ続けるのが司法の役割なのか~諫早判決の非情(2018.08.09)
・グローバル種子企業への便宜供与「4連発」(2018.07.12)
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