【米生産・流通最前線2018】30年産米 卸はどう対応するのか?2018年11月14日
30年産米の作柄は産地によってばらつきがあり、米卸業界も対応に苦慮している。最新の動向を(株)米穀新聞社の熊野孝文氏に分析してもらった。
◆品位の低下と価格上昇
生産者が持ち込んで来た30年産米コシヒカリをライスグレーダーの網目1.85ミリで篩(ふる)ったところ、網下に落ちるコメが信じられないくらい多かったという関東の集荷業者。高温障害や台風被害など複合的な要因で品位が低下したためだが、当初、こうした被害は関東が特にひどいのではと見られていた。しかし収穫が進むにつれ、北海道や東北でも似たような現象が発生「刈ってみたら実が入っておらず収量減」という産地サイドの情報があちこちから聞こえて来るようになった。そうした結果が農水省発表の10月15日現在の作況指数に現れた。この不作とも言うべき30年産米に流通業界はどう対処しようとしているのか?
◆予定の新米確保できず 増えなかった主食用米
10月15日現在の作況指数がある程度下方修正されることは卸業界では予想していた。それはこの時期、産地の全農県本部等とすでに契約した30年産米の入荷予定や数量の確認作業をしているためで、そのやり取りの中で産地側から「予定していた集荷量が確保できない」という返答が多く聞かれていたからである。ただ、それがどの程度の量なのか掴みきれないというのが実情で、中には産地側が伝えて来た数量があまりにも少ないので頭を抱えている流通業者もいる。
この業者は通販会社と強いつながりがあり、30年産で特定産地の銘柄米を新規で1000t販売する計画を立て、事前に産地の大手集荷業者や大規模生産者等と事前契約を行って来た。その時期は産地側も30年産は生産調整が廃止され主食用米を生産する生産者が増えると予測されていたため新規の契約に応じた。
ところが実際に収穫作業が始まってみると、生産者は「穫れていない」の大合唱で、早めに数量を確定しなければならない加工用米や政府備蓄米等制度米穀の必要量がショートする可能性まで取り沙汰されるようになり、新規契約分の数量が確保できる目途がつかなくなってしまった。
予定していた新米が確保できずに困っている業者はこの業者だけではない。大手卸の中には、30年産米は主食用米の生産量が増えると予測、早い段階から白米シェア奪還のために量販店等と新米納入交渉を進め、産地側と事前契約を進めていた卸もいる。新米が出回り始めたスタートは順調に行くかに見えたが、急激に産地の庭先価格が上昇したこともあってこの卸の新米セールは尻すぼみ状態になってしまった。
◆5kg2000円を超える ブランドからブレンドへ
新米相場の値上がりで困惑している卸の例としては、新潟コシヒカリを5kg1980円で販売すべく量販店と値入交渉していた中堅卸もこの価格に見合う玄米を確保できる見通しが立たず断念せざるを得なくなった。新潟コシヒカリの全農相対価格は東京着1等1万6430円(税別)になっているが、農協系統は必要量を確保するため集荷価格を上げたので相対販売価格も近く値上げされるものと予想されている。卸側は5kg2000円を超えると売れ行きがピタッと止まると言っているが、定番商品を切らすわけにはいかず、価格改定は避けられない。
最も悩ましいのが北海道産米で、作況が90の不作になったことからブランド米の代表ゆめぴりかの生産量が減少したことに加え、ホクレンが決めた基準品位を満たすゆめぴりかが激減、消費地卸に対してブレンド対応を求めて来た。これまで単品銘柄でブランドとしての地位を築いてきたものをブレンドして販売することには売れ行きを予想すると消費地卸の抵抗が強まることはやむを得ない。
◆検査受けない玄米確保 ホームセンターとタッグ
奇しくも北海道産ゆめぴりか、秋田あきたこまち、新潟コシヒカリという量販店での売れ筋御三家の30年産米がおかしくなってしまったという状況で、代替品の仕立てなど卸業者は悩ましい対応を迫られている。
中食・外食向けのいわゆる業務用米については、卸は2つの対策を取った。
一つは29年産米の活用である。中食業者の中には、大手卸から29年産の納入打診があり、それを受け来年2月まで購入契約を結んだところがある。なぜ2月かというと中食業者にとって今や恵方巻需要は欠かせないイベントになっており、この分のコメは何としても確保しておかなければならない。
農水省はマンスリーの今月号から5万t以上の玄米仕入れがある卸から小売店向け、中食・外食向けの精米販売量と販売価格を指数化したものを公表した。これをみると中食・外食向けの販売価格は前年同月に比べ8%近く値上がりしている。30年産はさらに値上がりするため中食業者が受け入れられる価格ではないので29年産米を納入することにした。
もう一つの対策として大手ホームセンターとタッグを組んで自ら30年産米の集荷に当たるという卸が出てきたこと。この動きが衝撃的だったのは、生産者からの買取価格を明示したことに留まらず、独自の品位規格を設け、検査品でなくても買い入れることにしたことにある。これを実行した卸はこれまで中食・外食業者に検査した産地銘柄のわかるコメを納入して来たのだが、価格上昇が止まらないことから流通コストを削減するため検査を省いたコメを精米して納入することを実需者の了解を得て実行することにした。
品位の担保はどうするのかというと自社精米の品位データを相手方に示すことでクリアしている。
品位低下したコメが多く発生する30年産米はこうした動きが活発化することになるものと予想される。
(関連記事)
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・【米生産・流通最前線2017】30年産問題ーどんなコメ「需要」に応えるのか?(17.08.07)
・【熊野孝文・米マーケット情報】30年産もち米急騰の構造的背景とは?(18.10.09)
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