【JA全農輸出対策部上野一彦部長に聞く】米の輸出は業務用がターゲット マーケットインで産地づくりを2018年1月31日
JA全農とJA全農インターナショナルはこのほど中国のeコマース最大手であるアリババの直営店で日本産米の販売を開始した。この事業の意義や、今後の全農による輸出事業の方向などについて、JA全農輸出対策部の上野一彦部長に聞いた。
◆「アリババ」会員5億人
--今回の「アリババ」直営店での輸出にいたる、これまでの中国への米輸出の取り組みについて改めてお聞かせください。
中国での米販売は10年前から贈答向けの高級品を中心に新潟コシヒカリの輸出からスタートしていますが、中国との貿易は実質的にCOFCO(中糧集団有限公司)が独占的に行い、そこに売り渡しをして、COFCOが自ら販売するという形をとっていました。
その後、東日本大震災による原発事故の影響で多くの県の農産品に輸入規制がかかり、全農としても輸出が一時止まりましたが、やはりコシヒカリはネームバリューがありますから、その要望はお客さんからも寄せられていたところです。
今回もアリババからコシヒカリを、とのリクエストがあり、われわれが調達できるものとして三重県産コシヒカリと石川県産コシヒカリを販売するということになりました。実は4年ほど前から販路を広げるためにCOFCOではない別の企業がCOFCOから米を仕入れて販売するという事業が始まり、それが今回のアリババへの販売にもつながったということです。
現在の日本産米の販売は大都市中心で、伸び悩んでいましたが、eコマースはマーケットが大きく、アリババもアカウント登録者が5億人いると言われており、有望なマーケットであることは間違いないと思っています。限定的な店舗でしか買えなかった日本産米が、中国全土で誰でも買えるということになりますし、中国ではやはり模造品が販売されますから、今回のようにアリババが自分で仕入れて売るということに信用力がかなりあると思っています。
アリババが自ら購入して売る。それもeコマースで売るという点に需要を広げていく可能性があると考えました。今回は試験的な販売ということで4tを買い取ってもらいました。
(写真)上野一彦・JA全農輸出対策部長
◆食べ方提案が重要
--中国のeコマース市場をどうごらんになっていますか。
アリババの持っているチャネルは非常に魅力的で、ただ米を売るというのではなく、たとえば他のものとセットで売っていくことも考えたいと思っています。水や、あるいは炊き方、食べ方についてもプロモーションをかけていかなければなりません。もちろん、それらのデリバリーをどうするかなど課題は出てきますが、水や炊飯器などとセットにして販売していく方法もあると思います。
とくに食べ方の提案をしていかなければならないと思っています。実際、中国への輸出を開始したときも、日本の炊飯器を現地に持って行き試食をしてもらうなど、いろいろなプロモーションは打っています。それでもなかなか伸び悩んでいたという実態がありますから、今後は素材の提案ではなくメニュー提案にまで踏み込んでいかなければなりません。
今回の販売価格は2kgで200元、3400円ぐらいです。1kg100元とすると、中国産米は一般的な単粒種で10元、高級品で50元ぐらいです。したがって、今回の販売価格は中国内の高級品にくらべて倍以上、一般的な米にくらべると10倍になっているわけですから、毎日食べる米というよりニッチな商品であることは間違いないので、プロモーションをしっかり行って、おいしく食べていただく提案とセットにしていかなければなりませんということです。
--今後の米の輸出についてどう考えますか。
実は日本のコシヒカリ、ひとめぼれといった銘柄米の海外での需要は一定程度、定着しています。
したがって日本産米の輸出をさらに伸ばすには高級品よりも、日本食レストランも含めた外食、あるいは日本と同じような中食向けに輸出していくことが重要になります。日本と同じように量販店には寿司やおにぎり、弁当がありますから、その米を日本産に切り替えていく。要は家庭需要から業務用需要へとシフトしていかないと数量は伸びないと考えています。
業務用となると日本と同じように一定の価格帯が求められますが、生産者の手取りを減らさないように多収米を作付け収量を多くすることによって、単価は安くても手取りは確保できるという低コスト栽培に取り組む必要があると思います。価格競争力を持つには価格と品質のバランスが取れた米を栽培し、それを業務向けとして輸出していきたいと考えています。
--そういう意味では米の輸出の課題も国内の米生産が直面している課題と同じですね。
結局、どこで米を食べているのかを考えると、シンガポール、香港、それからタイでも外食比率が7、8割になります。共働きが多いということが反映していますが、そうすると家庭で一から調理するのではなくて、外食、あるいは調理済みの食事を買ってくるということが多い。そこをターゲットにしていかなければなりません。
現在、4県17JAで輸出向けの産地づくりを進めています。その米づくりですが、実は食味に関して日本ほど厳しくありませんから、窒素を多く投入して多収にしようという試みを進めています。それによってどういう食味になるのかを調べて、どの程度まで窒素を投入することが適当なのか、あるいはどの時期にどう追肥をすればいいのかなど、海外向けの米づくりを検討しているというのが産地づくりの具体的な取り組みです。
--産地も取り組むべきことが多いということですね。
基本的に海外でも日本でも実需者が欲しいと思っているものを作ることが大前提で、マーケットインということです。
米についてマーケットインの発想で考えると、海外の実需者が求めているものは実は国内と同じ構図になっているということです。つまり、一定の品質と、競争力のある価格とのバランスの取れた米を作っていただくことでマーケットで売れていくということです。当然、競合するのは米国産や豪州産になりますから、3倍から5倍ある価格差を縮めていかなければなりません。それが産地づくりであり、多収米の低コスト生産に取り組むということです。
ですから、米産地にお願いしているのは、今からマーケットインの発想に立って海外の実需者が求める米づくりを始めましょうということです。この取り組みは全農自らも産地に入って、生産者のみなさんにも納得してもらうように進めています。
◆輸出事業 一気通貫で
--米に限らずJA全農の輸出対策全体としてはどんな体制と取り組みが進められていますか。
輸出対策部が立ち上がったのが29年4月1日で、われわれは国内の産地対策や行政対応などを担っています。同時に100%子会社のJA全農インターナショナルは、改めて輸出に特化する子会社としJAグループの輸出専門商社という位置づけで輸出実務を担うという体制になっています。双方で連携を密にしながら役割分担して戦略を練っています。
もともと農産物の輸出には国内の輸出業者や輸出先の輸入業者や卸業者など、中間業者が多く多段階流通になっています。それで現地での販売価格が高くなってしまうという面があります。
そこで全農としては、これからは自らが輸出し、自らが現地で輸入をして販売していくというかたちをとっていきたいと考えています。もちろん自ら、といっても一から流通をつくっていくのはかなり難しいですから、パートナー企業と提携したり、あるいは出資をしたり新会社設立、さらに買収ということもあります。その例が英国の食品卸会社の買収です。
つまり、JAグループとして自ら輸出し、自ら現地で営業・販売活動をするというスキームを作り上げ、将来は産地から輸出、そして現地での販売まで一気通貫にしようということです。それに向かって海外ではいろいろなパートナーと組みながら自ら売る体制をつくっていこうと取り組みを進めています。
--産地やJAはどう対応すべきでしょうか。
これからはさまざまな農産物の輸出に取り組むことが産地のモチベーションを上げ、また、輸出していることが国内の評価も上げることにつながるというブーメラン現象を招くこともあります。そういう観点も含めてぜひ輸出には取り組んでいただきたいと思います。
ただ、今、産地にあるものをそのまま海外に出せばいいということではなく、あくまでマーケットインで輸出用の農産物を作らなければ輸出は成功しないということです。
輸出対策部となって、まだ1年めですが、きちんと体制をつくり、2年めからはしっかり販路を確保して輸出を拡大していこうと考えています。
(関連記事)
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