JAの活動:GAPの意義と課題
【インタビュー・立石幸一JA全農参事】GAPに取り組み選ばれる産地に2018年4月9日
JAグループはGAPへの取り組み方針を平成29年5月に決定し、そのなかで第三者認証を必要とするGAP取得をめざす産地に対してはJAグループGAP支援チーム(JA全農のほかJA全中、JA共済連、農林中央金庫で共同設置)が現地アドバイスを行うことにしている。この方針のもとJA全農は耕種総合対策部にGAP推進課を新設し、今年度からGAP第三者認証取得をめざすJA生産部会などへの支援強化に取り組む。この取り組みは当然のことだが、現場の農業者、JAの理解と合意がなければ進まず、JAトップ層、営農指導担当者などがGAPとは何か、なぜ取り組みが必要かを伝えていくことが鍵になる。今回はJA全農でGAPへの取り組みを推進してきた立石幸一参事に取り組みの意義と課題など聞いた。
◆「よき農業」をめざす
--改めてGAPとは何か、なぜ取り組みが必要なのかをお聞かせください。
GAP(Good Agricultural Practice)とは、「適正農業規範」、あるいは「よき農業の実践」とも言われます。農水省は「農業において食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取り組み」としています。
JAグループとしてのGAPへの取り組みは、平成18年のJA全国大会で対応を提起するなど10年以上になりますが、なかなか進んでいないというのが実態です。このような中、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定し、食材として使用される農産物の基準にGAPが採用されたことから、国が取得への支援に本格的に乗り出しました。しかし、GAPは単なるオリンピック・パラリンピック対策としてではなく、わが国の農業として環境面、経済面、社会面での持続性をめざす取り組みとして位置づけていく必要があります。
そもそも直接人の口に入り、命の源となる食材を生産する農業者として考えておかなければならない視点があると思います。1つは当たり前に安全な農産物を提供することであり、2つめは環境に配慮した持続的な農業の確立、3つめは農業に関わる人の人権、健康と安全の確保で、これらの視点は農業者の社会的責任として自覚するべきだと思います。
ただ、3つの視点から見て、自分の農業があるべきレベルに対して適切に対処できているかどうかは、自分自身でなかなか気づかないことも多い。そこでこれを網羅的に管理して、農機具や生産資材の扱いや、農場の環境などでリスク要因をハザード(危険要因)として認識し、それを取り除くことで「よき農業」を実践するのがGAPだということです。さらに、それをしっかり実践できていることが第三者によって証明されるのがGAPを取得するということです。
◆「見えない価値」を重視
--ただ、国際水準のGAP認証取得はハードルが高いという声も聞きます。世界の動向も合わせてどう考えればいいかをお聞かせください。
農水省が定めたガイドラインに準拠した都道府県GAPなどへの取り組みをGAPへの取り組みの導入にするという産地もあります。
そのような産地においても、国際水準のGAPを日本でも定着させる意義については考える必要があります。
農業分野における世界的な潮流は、価格や見た目の良さ、機能といった見える価値だけではなく、まさにGAPが追求する「食品安全」、「環境保全」、「労働安全」、「人権保護」といった「見えない価値」が顧客から求められるようになっているということです。
EUでは、消費者視点にたって、農業者に対してだけでなく、食品事業者にも第一義的な責任を求める規制をしましたが、そのことで事業者それぞれが農産物の取引基準を設けたことから混乱を招き、事業者間の取引に対応できる統一規格が必要だとして民間の食品事業者が中心になって発足させたのがGFSI(Global Food Safety Initiative)です。日本の食品企業も加入しているこのGFSIが、食品安全のグローバル規格の必要性を共有し、グローバルGAPなどの認証スキームを承認しています。
我が国の生産農家の実態で言えば、マーケットで評価されている生産物を生産している農家の多くは、国際水準のGAPが求められている基準の多くは実践していることも多いのです。
その中で、国際水準として求められる農業レベルに対して欠けている点を自覚して補強するということです。
--JAが取り組む意義についてはどう考えるべきですか。
GAPを実践するといっても個人では限界があります。個人の農場だけでなく選果場や物流施設などもGAP基準に対応していかなければなりません。
私が昨年秋視察したスペインの例では、GAPの取り組みの進展が農業者を農協に再結集させている事例となっていました。営農指導員が農業者に対してきめ細かくGAPをクリアできるレベルの指導を行い、営農指導員によって、各農家のほ場ごとの情報が集約されて、販売先が求める基準の確保がなされ、農協の品質管理のもと、実需者と販売計画を事前に合意し、契約的取引にて実需者とバリューチェーンとしてしっかり結びついていました。今後日本もめざすべき姿のひとつだと思いました。
バリューチェーン構築に求められていることは、生産者レベルの均一化であり、ほ場単位の情報がリアルタイムで把握できることが必要で、GAPの取り組みは、まさにその土台となるものです。今後、国際水準GAP認証を求める顧客の拡大が見込まれ、対応できる産地が選択される時代となります。
これからは、求める顧客と対応できる生産者のマッチングが必要で、全農もその役割を果たさなければなりません。JA段階においては、営農指導の力量をあげ、GAPの実践を通じて法人、担い手も含めて地域全体の農業者の信頼を得ることができるチャンスであると思います。
--当面はどのような取り組みを進めますか。
29年度はJAグループとしてGAP支援チームをつくりましたので30年度から本格的に取り組むことになります。
そのために各地で取り組みを進めていこうと考えているのが農場評価制度(グリーンハーベスター農場評価規準、日本生産者GAP協会)の活用です。
GAPの第三者認証に取り組むかどうかは別としても、まずは自分たちの農場がどのようなレベルにあるのか、GAPの第三者認証を取得するには何が不足しているのか、地域のなかで農場レベルにばらつきはないか、などを何よりも自分たちでお互いに知ることが大事だということです。そして、自分たちでこれでいいのかと考えて合意を得て進めていく。GAPは上から掛け声をかけただけで進むような取り組みではありません。
現状においては、国際水準GAPを求める顧客が少ないために生産現場に強い動機が働かない状況もあり、現時点での取り組みは、コストに見合う成果に乏しく、農業者への支援措置も含めて政策上の課題もあります。GAPは自分たちの農業を見つめ直して、再生産できる持続可能な農業をめざして、安全で品質のいい農産物を提供していくためのツールであるという基本的認識が必要だと考えています。
(次回以降に具体的な取り組みなども紹介していく)
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