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JAの活動:農業協同組合に生きる―明日への挑戦―

「農協改革」への対抗軸1県1JA構想を考える2017年7月26日

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JC総研
冨士重夫理事長

 JAグループは自らが果たしていく役割を「食と農を基軸とした地域に根ざした協同組合」と位置づけている。JA自己改革がめざすのも、つまるところはその姿を地域でどう実現するかだろう。しかし、それを阻止しようと、さまざまな主張や批判を繰り返し政策課題にすらしているのが政府の進めてきた信用事業分離などを求める「農協改革」である。その経過と狙いを改めて整理し、「総合農協」として地域の持続的な発展を担う戦略を打ち立てる必要がある。その戦略としてJC総研の冨士重夫理事長が提唱するのが1県1JA構想である。それは新たなJAの姿でもある。

◆「農協改革」のネライとその論理

冨士重夫・JC総研理事長 政府・与党、安倍政権がすすめる「農協改革」のプロセス、その時間軸は、第1弾が平成26年から27年の中央会制度の廃止、公認会計士監査の義務付け、総合JAの各事業や全農の株式会社への円滑な転換規定の整備であり、第2弾が、全農改革、農業資材・農産物販売に係る流通加工分野の業界再編であり、そして第3段が、信用事業の譲渡・代理店化と全農をはじめとする全国連合会の株式会社化を平成32年頃までに完遂することを想定している。
 准組合員への事業利用規制を5年後条項として常に脅しに使いながら、JAを専業農家や農業生産法人のための経済事業に特化した農業協同組合に転換させる。すなわちJAの信用事業を中金に譲渡させ代理店化し、総合事業体としての協同組合を解体させ購買・販売だけの専門農協にさせる。連合会は全農を手はじめに順次、中金、全共連も株式会社化し、いずれ他企業のM&Aの対象とさせ、系列化も解体分断するという絵姿を描いている。
 そして、この絵姿を支える論理、考え方の1つが他業態とのイコールフッティング、株式会社と同じ土俵で協同組合も事業展開すべきというものである。この論理は公平を主張しているように錯覚させるが、そもそも株式会社と協同組合は考え方や事業の仕組みが違う法人であり、違うのが当たり前で、そのことを踏まえ両者異なる規定を整備しているわけであるが、様々な項目に攻撃を仕掛けて来ている。
 例えば、独禁法の適用除外をはずす、法人税の軽減措置の廃止・縮小、金融事業の兼営禁止・信用事業分離・代理店化、中央会制度の廃止・公認会計士監査の義務づけ、指定生乳生産者団体制度の廃止といった主張や、法改正となって現実化している。
 絵姿を支えるもう1つの論理が、農業者だけの、しかも専業や農業法人のような農業者の協同組合になるべきだとする農業純化論、逆に言えば地域振興に寄与する地域協同組合的事業の否定である。
 この論理に基づく攻撃は、例えば、農協法の事業目的の「農業所得増大に最大限の配慮」や、ガバナンスにおける「理事の過半数は認定農業者」という法改正に現実化している。そして、この論理はJAの総合事業は分離解体し、専門農協になるべきという絵姿につながり、JAの各事業や全農を株式会社に円滑に転換できる規定整備の改正に表われている。
 一方、JAグループ自らの「自主改革」におけるスタンス、立ち位置は「食と農を基軸とした地域に根ざした協同組合」である。つまり地域農業振興と豊かで安心・安全な地域社会を実現するため、多様な農業者と広範な地域住民が組合員として結集する協同組合であり、購買、販売、信用、共済、生活、福祉厚生など総合事業を展開する協同組合である。
 総合事業体である協同組合でなければ、地域農業振興と地域社会の活性化・創生という組合員の思いは実現できない。

(写真)冨士重夫・JC総研理事長

 

◆信用事業譲渡・代理店化の意味

 信用・共済事業の代理店化の意味、デメリットとは何か。それは単なる収益比較の問題ではなく、主客逆転、地域の現場が主役でなくなり総合的対応が不可能になるということである。
 JAが中金、全共連の代理店と言うことは、地域金融機関でなくなり、地域の主体性がなくなる。代理店契約を結ぶのは中金、全共連の判断であり、収益性の悪い店舗は切られるので、全店舗が代理店でありつづける永続性はない。主役は中金であり全共連である。株式会社に転換すれば協同組合金融機関でなくなり、他金融会社のM&Aの対象となる。また、中金や全共連生保会社・損保会社の100%代理店であることの保障もない。韓国の例では1社25%が上限で、他社の商品も扱うのが代理店である。
 代理店手数料には消費税が課せられ、今後上昇して行く事は必須であり。負担が増大して行く。収益はJA自ら実施する場合と比べ、平均値的に言えば7~8割水準で、貯金量規模が同じでもJA毎の貸付リスクに応じて代理店手数料は大きく異なる。こうした中で、JA自らの経営判断で投資や他事業への融通はできないので総合対応力の低下、事業間支援は困難となる。
 代理店化のメリットは、農水省は隠して言わないが、中金に譲渡すれば、准組合員や員外の利用規制から解放される、誰と取引きしても自由となることだ。

 

◆戦略的1県1JA構想

 こうした状況の中で1県1JA構想を掲げる県が増大している。現状では奈良、香川、沖縄、島根が1県1JAであり、これに準ずるのが佐賀、大分である。これから検討し取り組んで行く県が高知、山口、福岡など8~10数県あるのが実態で、西日本に多い傾向がある。
 この中でも県域の広さ、県民人口の多さ、多種多様な農業生産、地域の特性から考えて福岡県の検討の取り組みは注目を集めている。平成29年度から県内20JAは県中へ人材を出向させ本格的検討に入っている。今後、福岡の絵姿や形がモデルとなる可能性が大であり、福岡県の取り組みの成否が大きな影響を与えるのではないかと思う。
 「農協改革」を踏まえた対抗軸として、戦略的な1県1JA構想の根底にあるものは、信用事業を地域で現場で主体として引き続き展開し、総合事業体としての協同組合を発展させ、強い農業協同組合であり続けたいとの思いがある。
 単なる形だけの1県1JAではなく、各事業特性を生かして行くにはどうすればよいか、農業者と組合との関係、作目、品種毎の販売体制はどうすればよいか、など多くの困難な課題を検討し具体的な絵姿を描いて行かなければならない。
 経営難や赤字、不良債権克服のための1県1JAや、将来の経営困難を予測し、先取りした形で合併する1県1JAとは違う、まさに「農協改革」を踏まえた情勢、信用事業譲渡による代理店化ではなく、地域金融機関として総合事業体の協同組合として発展して行くための攻めの事業展開や執行体制の強化と言った観点から、戦略的1県1JA構想が、各地の現場から提起されていると受け止め、認識する必要がある。
 制度的担保を廃止し、会員JAの意思で、必要だから設立される新たな連合会県中、一般社団法人全中が一体となって、この戦略的1県1JA構想の実現に向けた様々な課題への答えを検討すべきであり、来年のJA全国大会議案に盛り込むべく、取り組むべきだと思う。
 信用事業、共済事業は、JAバンクシステム、JA共済システムの高度平準化により、全国どこでも統一している。1県1JAにおいても、その絵姿は容易に描いて具体化できる。
 事業上の大きな課題は購買と販売である。購買事業は地区本部などに分散してはダメで県統一システム、施設と配送とを組み合せた合理的効率的なシステムを県域やJAの特性を踏まえて構築することが必要である。
 販売事業は、まさに地域特性、作目特性を踏まえた、組合員との関係を創造できる、きめ細かな地域体制をどう構築するか、販売事業戦略と正組合員の意思反映・参画とを組合せた新たなシステム作りが必要である。
 そして、こうした購買、販売システムと信用・共済をも合わせた総合事業体としてのガバナンスを、どう折り合わせて縦横組み合せて構築できるか、という課題に対して、具体的な答えを出さなければならない。

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