JAの活動:農業協同組合に生きる―明日への挑戦―
【提言・JA自己改革】【日本福祉大学経済学部 柳 在相 教授】経営者よ 強くなれ2017年7月30日
・戦略なき組織は滅びる
・「農協運動論」もはや限界
今、全国のJAは農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化を目標とする自己改革を実践している。その実践は地域特性をふまえて組合員とともに新しい地域農業を作りあげる取り組みとして期待される。ここでは、さらにJA経営の視点から自己改革を議論するため、各地JAの取り組みなどを研究してきた日本福祉大学の柳在相教授に提言をしてもらった。
◆経営の時代を迎えるJA
JA全中の解体が正式に閣議決定(平成27年4月3日)されてから、JAを取り巻く経営環境はますます不確実性を増している。JA全中は経団連のように社団法人化され、経営指導及び監査権限が廃止される。このことにより、各JAが経営の自由度が大きく拡大し、地域の実情に応じた自由な判断で、流通ルートの開拓や効率的な経営手法を取り入れやすくなる。
さらに、独自のサービスや価値提供により営利目的の活動も認めることとし、JAが利益を出せば農家が潤う仕組みを追求することが可能になる。まさしく、JA全中を頂点とした時代は終わったといえる。
JAの経営にとってあまりにも根源的な変化であり、JA事業の仕組や競争力だけでなく、今やJAのアイデンティティまでも脅かされる局面にまでいたる恐れすら感じられる。それは環境の変化が根源的でその影響が大きければ大きいほど、今までの仕組はその有効性を突然にかつ急速に失われていくからである。もはやJA全中が先頭に立って指導事業の名の下、画一的な戦略を打ち出しながらJAグループをまとめていくことはできなくなる。これからは各JAが自JAの経営環境に適応するための戦略を自らの経営能力でもって構築し実行していかなければならない。つまり、これからのJAは、経営能力が問われる時代を迎えるようになり、自らの存続を独自の経営戦略に基づいて自らの努力と責任で図っていかなければならないのである。
そして、経営戦略の格差によりJA間においても業績の格差がますます加速化することになる。実は、多くのJAは今の厳しい難局を早くから予想していたかのように、もう既にさまざまな工夫と努力を積み重ねてきている。ただ、残念なことに短期的には一定の成果をあげて事業部門ごとには多くの示唆を与えてくれたものの、再び経営不振に陥ったり不祥事を起こしたりするケースが少なくない。また、従来の考え方や事業仕組を固執しようとしている訳ではないが、いったいJAのどこをどのように革新していけばよいのかが分からないから、なかなかJA改革の着手に踏み切ることができず、問題解決を先送りするケースも少なくない。その結果、これといった対策を講じられないまま、(問題の先送りの果てに)吸収合併を選択せざるを得ない局面に追い込まれるケースも現れている。
総合JA数は、昭和35年4月1日時点で12050組合から平成10年には1833組合へ、平成20年には761組合へと激減し、平成28年4月時点では659組合へと約20分の1に減少した。そしてJAの合併を進めた結果、1JA当りの管内地域が2・2市町村の範囲と広域化するようになり、1JA当り組合員数も14556人と拡大した。ところが、1JAの規模が大きくなったのに対して、1JA当り役員数と職員数はそれぞれ20人、245人へと減少した。このことは、これまでより少ない役職員で、これまでよりも多い組合員を対象に、これまで以上のサービスを提供しなければならないことを意味する。同時に、合併後のJAにはより専門的でかつより高度なレベルでの経営能力が求められていることを意味するのである。
◆建設的・生産的議論を
JAは農業者が中心となってつくった農業協同組合なので、助け合い精神が基本で、農家の安定的な所得を獲得することが、組織の目標だったはずである。ところが、JA職員の給料を稼ぐために農家の所得安定を後回しにする流れになってしまった。
JAはそもそも農家が儲かるようにしてその手数料で職員の給料を払うことができるようになるが、その基本となる経済事業がどんどん縮小していった。そこで農協職員の給料低下をJAグループの中で解消するための努力が、信用・共済事業の強化だった。信用・共済事業で利鞘を稼いで農家に還元するプロセスの中で、職員の給料を確保してきたのである。
しかし、問題意識の強い農家が徐々にJAグループに依存する体質からの脱皮を図り、独自生産・独自チャンネルで自らの収益を上げる方法を考えるようになった。そこで、JAグループは小さいJAから大型JAをつくり施設の集約化を図るための合併を進めるように努めたが、今度は広域合併による大型化を進めたが故に地域密着ができなくなってしまい、組合員との親密なコミュニケーションは期待できなくなった。しかも、今の若い世代には経済観念が強く浸透していて、やる気のある農家とない農家、規模の大きい農家と小さい農家、儲かる品目に移動しようとする農家とのトラブルなど、地域社会でいろいろな問題が起こるようになった。その結果、JA無用論までもが台頭することとなった。 ICAもこれまでに3回(1937年と1966年、1995年)、公式な表明を行っている。それぞれの時代において、協同組合原則をどのように理解すべきかについて説明するためである。
このように、原則は一定の期間を経過するなかで改訂されてきている。時代の流れとともに変化する世界のなかで、協同組合が新しい挑戦を迎えて、どう自らを対応させていくことができるかを示している。もうこれ以上、盲目的に協同組合原則を振りかざした議論は止めて、JAのおかれている厳しい環境を冷静に受けとめるべきである。そして、今のJAの経営者は、時代の趨勢にあわせた事業仕組の創造とそれを支えるための新しい理論的裏付けの創造を目指して、建設的かつ生産的な議論を進めていかなければならない。
平成21年8月に刊行した拙著『JAイノベーションへの挑戦』(白桃書房)の中では、「いかにすれば魅力溢れるJAを創り出すことができるのか」、また「いかにすれば組合員に喜ばれるJAの事業構造やガバナンス、組織構造を再構築することができるか」、「JAの存在意義をこれからどこに求めるべきであろうか」などの問いについて、より具体的な示唆や答えを提示しようと努めた。
とりわけ、先進JAのリーダー達が果たしている役割をなるべく詳細に記述することによって、JAイノベーションのきっかけや突破口を提供できるようにした。その中で、JA全中元副会長の村上光雄氏は、JAおよびJAグループには(1)組合員だから許してもらえるだろう、(2)JAだからつぶれないだろう、(3)JAグループだから何とかなるだろうなど、甘えの組織文化が根付いていると指摘し、これらの「JAの甘え」を断ち切らない限り、JAイノベーションを成功に導きだすことができないと警鐘を鳴らした。
また、JAとぴあ浜松元代表理事組合長の松下久氏は「JAは会して議せず、議して決せず、決して実行せず」と、JAの意思決定プロセスを批判した上で、「合併後の新しいJAには、過去の問題を積み残してはならない」と熱い思いを合併研究会のメンバーで共有するよう努め、それぞれの地域がエゴイズムを捨て、快く受け入れてくれるような将来へのビジョンを形成し、役職員が一丸となってその実践に向けて全力を注ぐようにした。
さらに、JAむなかた代表理事組合長の川口正利氏は、多くのJAにおいて経営トップが非常勤役員に弱い姿勢をとったり経営責任を先送りしたりして、自己改革に着手できずに悩んでいると指摘しており、理事会から常勤役員会への権限移譲を図るなど「早い決定、早い行動」の実現に励んでいる。
今までのJAでは協同組合原則(民主的な運営)を重んじているが故に、メンバー全員の一致した合意形成がない限り、なかなか組織決定に辿り着くことができない。強いリーダーによる議事進行などは余計な反発を買ってしまう恐れが大きいが故に、経営トップはなるべく思いきった決断を避け、温情主義に基づいて無難に組織を治めようとする。長い時間をかけて忍耐強くひたすら説得を繰り返しているだけであった。
◆JA自己改革達成を
これからのJAには、「経営の時代」を迎え、経営トップの高い経営能力に基づいた強いリーダーシップの発揮が切実に求められているのである。
この6月に刊行した『JA自己改革への挑戦』(全国共同出版)では、JAイノベーションのテーマと示唆をより明確に打ち出すことができるように努めた。まず、農村型JAとして「JAおちいまばり」をとりあげ、地産地消による農業振興の拠点づくりについて注目した。次に、都市型JAとして「JA東京むさし」をとりあげ、農による差別化戦略を通して都市農業を守るための努力などについて注目した。また、協同組合精神に基づいた理念型農協として「JA松本ハイランド」に注目し、農協運動論から社会性と経済性を融合した経営へのブレイクスルー(跳躍)について考察した。
さらに、未合併JAとして「JAみっかび」をとりあげ、戦略的産地づくりやブランド戦略、戦略商品開発の取り組みなどについて注目した。最後は大型合併JAとして「JAあいち知多」をとりあげ、「営農経済事業を基軸として総合経営の好循環を生み出すための戦略的マネジメント」について考察した。 JAの現場では、それぞれのJAが自JAのおかれている経営環境に適応するために必死の思いで様々な工夫と挑戦を積み重ねており、何とかして独自の戦略を展開することによって、農業の活性化と農家の所得向上というJAの原点と使命を実現すべく、役職員と組合員が一丸となって頑張っている。このことを明らかにすることにより、より多くのJAが勇気を持ってJAイノベーションへ挑戦することができるようにしたいという思いが、執筆の動機である。
筆者がJAグループの人材育成に携わってからもう少しで20年になる。この間、さまざまな場面でJAの経営者および実務者の方々から多くの示唆やひらめきを教えて頂いた。今回の刊行で、これまでの研究活動を支えて頂いた皆様に、少しでも恩返しができればと切実に願っている。
JAグループの仲間の皆様、みんなでJA自己改革の達成を目指して頑張りましょう!
【略歴】
柳 在相(りゅう・ぜさん)
1983年韓国外国語大学卒業。87年慶応義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了(MBA)。92年商学研究科博士課程修了(商学博士)。米国ペンシルベニア大学ワートンスクール客員研究員などを経て、99年より日本福祉大学経済学部教授。2003年4月より同年3月まで福祉経営学部長を歴任。現在は日本福祉大学大学院福祉経営専攻長。医療福祉マネジメント研究科教授。同経済学部教授。主な著書は『医療福祉の経営戦略』(中央経済社、2013年4月)、『JAイノベーションへの挑戦~非営利組織のイノベーション~』(白桃書房、2009年8月)、『ベンチャー企業の経営戦略』(中央経済社、2003年3月)など。
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