JAの活動:農業協同組合に生きる―明日への挑戦―
【インタビュー・1県1JAの現場から】竹下正幸・JAしまね代表理事組合長2017年8月2日
・地区・県域で共通意識を
・スケールメリット実現へ
竹下正幸・JAしまね代表理事組合長
島根県のJAしまねは平成27年の3月に誕生した全国4番目の1県1JAである。「足元の明るいうちに」という萬代宣雄・JAしまね前組合長のリーダーシップで、人口や正組合員の減少が予想される将来を見通し、余裕のあるうちに合併を試みたところに特徴がある。この新JAを引き継ぎ、「合併のメリットを組合員に還元できる運営と自己改革及び収支の安定を確立させる事が私の役目」という竹下正幸代表理事組合長に農協への思いと1県1JAの展望を聞いた。
◆養鶏で「協同」を
――組合長に就任されて1年ほどになりますが、いまの心境は。
JAしまねは平成27年3月、県内11JAが合併し、1県1JAとして発足しました。信用事業譲渡などJA改革が今のような大きな問題になる直前に1JAとなったことは、タイミングがよかったと思っています。それだけに大きな責任を感じています。
これまで養鶏をやっていて思っていたことですが、協同組合は個人や事業者が集まり、共に助け合うことだと言いますが、私は10人をまとめて10倍の力にするのではなく、20倍にも30倍にもすることだと考えてきました。これが私にとって協同組合の原点になっています。
この考えで、県内の仲間とともに組合を作り共同養鶏に取り組んできました。卵の有利販売や生産コストを下げて経営を安定させるには、共同販売・共同購買が欠かせません。それには農協を利用するのが一番と考え、県内の養鶏農家に呼びかけ農協を利用してきました。
卵の販売、飼料、生産資材購入などで、数量をまとめて販売先のスーパーや購入先のメーカーなどと交渉し、メンバーが所属する農協で手数料や決済サイトなど、取引条件を統一するように働きかけました。融資を受ける場合も同じです。農協の転貸で公庫から借りる場合、同じ条件で扱うよう公庫にも農協にもお願いしました。
また販売面では、島根県の鶏卵は、昭和45年当時京都に出荷していましたが、これでは運賃もかかりコスト高になるので駄目だと思い、農協も利用し県内の青果卸売市場に出荷するほか、スーパーや小売店を回り直接販売のルートを開拓しました。
最初は県内の養鶏農家6人でスタートし、最大で20人ほどになりました。今はメンバーが8人ですが、この考えは引き継がれ、現在は私の30万羽を含め、メンバー全体で約50万羽の規模になっています。県内の仲間と始めた養鶏ですが、必要とあれば養鶏部会をつくるよう農協にお願いし、生産性向上のための研修会や視察などを行ないました。振り返ってみると、その間に強く感じたことは、協同の力がいかに大切かということでした。
(写真)代表的島根和牛の「仁多牛」
◆地区本部は独立採算
――1県1JAで、どのような取り組みがあり、その成果はどうですか。
大型JAになると、当然ながら統合のスケールメリットを求められます。特に購買事業は集約によるメリットが期待されており、価格低減に向けてプロジェクトを設置し、銘柄の集約等を行うことなどによるメリット創出に取り組んでいます。
また、スケールメリットを出せる飼料、養鶏、養豚については、本店の畜産部に飼料養鶏養豚課を設置し、仕入れ販売を集約し本店へ移しました。牛に関しても肉牛販売課という販売専門部署を設置して一元化し、一元集荷による販売を進めています。野菜は5品目(キャベツ、たまねぎ、ミニトマト、白ネギ、アスパラガス)を重点品目として県域全体に栽培を勧めているところです。しかし一方では、野菜や果樹はそれぞれ地区の文化・風土の特徴もあることから、それを活かしながら地域の特色ある生産・販売にも取り組んでいます。
畜産に関しては県内2か所に「畜産総合センター」(キャトルステーション、マザーステーション)を建設しています。生産者が高齢化する中で、肉牛の繁殖基盤確保を基本に、ひいては肥育農家の支援にも資するものとして、子牛・繁殖牛をセンターで預かり、農家の繁殖・肥育経営のお手伝いをさせていただいています。
畜産総合センターは、統合JAでのモデル事業として、広域的な面を含め新しい取り組みです。JAしまねの特徴の一つに地区本部制、地区本部損益管理があり、合併前の11農協をそのまま地区本部として、経営面での損益管理を行うということがあります。畜産総合センターもこの考えを基本に、地区本部による運営と損益管理を行いますが、統合JAのモデル事業として、本店も積極的に事業運営に関わり、場合によっては経営支援や再建指導も視野に、一緒に汗をかいて新規事業の成果を出していく仕組みになっています。これは広域のライスセンターなどをつくった場合等も同じです。
平成28年度のJAしまねの決算では10億5000万円の事業利益、12億5000万円の剰余金を出すことができました。今回の剰余金処分では、JAしまねとして各地区本部の業績に応じた利益を還元する業績還元分を考慮して1.5%の出資配当を行いました。
(写真)竹下正幸・JAしまね代表理事組合長
◆農業生産が上向く
前任者の萬代組合長は、約10年かけて合併を実現されました。1県1JAを組合員から合併して良かったと評価されるようにと、合併を推し進められました。従って合併のメリットをはっきり示す必要があります。その成果はすでに県の農業粗生産額にも現れています。平成26年度の520億円だったものが、27年度は570億円になりました。これには、さまざまな面で1県1JAが関わっているからだと思っています。
儲かる農業の実現、再生産可能な農業の実現のために、生産資材は1円でも安く、生産物は1円でも高く、金利は1円でも安くを基本に取り組み、生産資材は価格低減プロジェクトによる整理や銘柄の集約等を行い、28年度の肥料・農薬の価格低減においては約4000万円の利益還元を行いました。
また販売面の一例で、米の買取り制度を実施し、昨年度約4万500tを取り扱いました。農協もリスクを負って、懸命に販売努力をしなければなりません。園芸作物のブドウの「デラウエア」も、1kgあたり価格1300円以上を目標に、販売に力を入れています。
また、JAしまねの施策で大きな目玉の一つに農業振興支援事業があります。4億円を計上し、生産振興の施設整備や生産者コスト削減に必要な設備投資の支援を行っています。もう一つの目玉にポイント制度があります。購買だけでなく、信用・共済事業などを含め、各種事業をご利用いただいたときに付与するポイントで、還元額は約2億7000万円になります。農業振興支援事業は正組合員が対象で、総合ポイント制度は准組合員を含めた地域対応と位置づけています。准組合員は約16万人いますが、組合員で括るとみんな同じだと考えています。
もう一つ、昨年4月から認定農業者支援資金の取り扱いを始めました。従来の農業資金に比べ、手続きが簡単で審査にかかる時間が短く、県からも利子助成をいただき、ゼロ金利での融資も一定金額以内で行い、全体で借入利率も低くなっています。28年度は204件、約14億円の利用をいただきました。
◆職員の目的共有化を
――合併して、2年経ちましたが、JAしまねの職員としての共通意識が育っていますか。
各地区本部には、それぞれの文化・風土があります。今後、お互いが目的をどのように共有するかが課題です。給与面の統一はこの春に整理を行い、5年をかけて調整をすることとなりましたが、JAしまねをより一体的に運営するには、将来、地区本部間の人事異動もしなければならないと思っています。そして職員が楽しく仕事ができ、そのことを家族で会話できるような職場環境にしたいと思っております。
JAを巡る環境が一層厳しくなる中、役職員の共通意識が最重要課題だと思っています。JAしまねの今後の運営をどうするか、JA改革のめざす農業者の所得向上、生産拡大、地域の活性化をいかに進めるかの両輪で考えていただけるようになってきたと感じています。これをさらに深めるため、「運営体制検討プロジェクト」を設置し、調査・検討に着手することとし、この中に「意思反映・執行体制ワーキンググループ」、「事業運営ワーキンググループ」(総務・企画、信用・共済、営農・経済)を立ち上げました。一旦、お互いが現状を認識し、将来あるべき姿を探ろうというものです。
――普段、仕事をする上で、職員にはどのようなことを望みますか。
感謝と協調、それに創意工夫・挑戦と実行をしていただける職員であってほしいと思っています。出勤時の日課として、まずあいさつ、仕事の段取り、整理整頓、そして最後は報告・連絡・相談の「ほうれんそう」で一日を終わる。日々のおこないとしてそれをきちんとやっていただきたい。
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