JAの活動:第65回JA全国青年大会特集
【提言】JA青年部に期待する 食を軽んじた国は亡びる 須藤正敏・JA全中副会長2019年2月14日
第65回JA全国青年大会に向け、JA青年部出身のJA全中・須藤正敏副会長に盟友にエールを送ってもらった。
国民の理解深める運動を
精力的に青年組織活動に取り組まれていることに、青年部出身として深く敬意を表します。
ポリシーブックを結集軸として、現場の課題を話し合い、その解決に向け、(1)自分たち農業者でやること、(2)団体として実施すること、(3)行政に要請すべき事項を区分し、食と農の価値を高めながら"責任ある"政策提言をする組織となったJA全青協。地域の方々をはじめとする消費者・関係者との議論や交流を重ね、食料・農業・農村、JAの発展に向け、さらに取り組みをすすめていただければと思います。
◆脈々と続く我ら農業青年組織!
JA全青協の活動の歴史は、戦後の農業の歴史と共にあったと言っても過言ではありません。若手農業者の現場の声・課題、疑問を地元JA、都道府県、国に投げかけ、少しでも課題解決しようとする心意気・運動は、その方法、やり方は時代と共に変化したといっても、脈々と今に続く青年組織。正にJA全青協の真骨頂であります。
1960~70年代は、主食であるコメに対する国の対応の変化が起こりました。コメの減反政策が開始され、米価引き下げ議論が声高に叫ばれ、農産物の大幅な自由化が始まり、オイルショックが農業資材の価格暴騰に拍車をかけました。
1974年、日本武道館で開催された「米価要求全国大会」で日本の農業の担い手、農家の後継者、盟友の怒りが爆発。一部の盟友が壇上を占拠するなど、混乱をきたしました。
この時、常に行政に対する要請・陳情・請願に終始したJA農政運動の改革の必要性をJA全青協では感じ、「消費者」というキーワードを意識することとなります。当時、JA全青協でも取り組んでいた「宅地並課税反対運動」、「相続税軽減対策運動」では、農政活動以外にも消費者を巻き込んだ青年部の運動が、その後の相続税納税猶予制度や生産緑地制度創設の道筋をつけることになります。
1980年代には農産物の市場開放が求められ、牛肉・オレンジの自由化問題に端を発した農業バッシングがマスコミを中心に起こりました。消費者理解を広め、消費者と連携した運動こそが大事である!と運動の方向を国民全体に広げる時代へと変化していったのです。
1985年には、日本生協連、新日本婦人の会、全労協、日本消費者連盟と共催で「農業・食料問題懇談会」を開催。農業を消費者の目線で理解を醸成する方向へと変え、農業視察や横浜税関での輸入農産物の薬づけの状態や杜撰な保管実態を学びました。
(写真)須藤正敏・全国農業協同組合中央会副会長
◆都市農地の価値を理解してもらう―私の歩んだJA運動
私が就農した頃は日本の高度経済成長の真っ最中でした。人口は1億人を突破。経済成長率は年間10%を超え、サラリーマンの給料はうなぎのぼりという大変に活気のある頃です。企業業績は絶好調であり、東京には若い勤労者が集まり、学校を卒業したばかりの"金の卵"がもてはやされました。また、同時に貿易摩擦も発生していました。
こんな勢いで都市に人口が集中する時代ですから、たちまち勤労者の住宅難となり、政府は三大都市圏の特定市の農地には、宅地と同じ税金を課すという想像もしなかった税制を実施しました。
我が家も江戸時代から続いている農家でしたので、幼い頃から当然、農家の後継者として育てられ、私もまったくその気持ちでいました。
我が家は、昭和の初期までは、東京の多摩地区の農家がそうであったように換金作物である養蚕を中心にした農家でした。
昭和初期の世界恐慌の影響を受け、繭の値が大暴落したために養蚕をやめ、野菜や麦、サツマイモなどの野菜農家に転換したと聞いています。戦争中は働き手が徴兵されて3人の息子のうち、2人が戦死してしまいました。祖父、祖母、銃後の家族で必死で畑を守って来たと聞いています。そんな畑に重税を課して農業をやめさせる!「ふざけるな!」と叫びたい気持ちでした。
そんな時頼りになったのがJAでした。宅地並課税に対抗するには農家が団結すること。先輩の誘いもあり、私はJA青年部に入りました。学生の頃からJAの存在は知っていました。肥料や農薬、農業資材を買ったり、青果市場の売り上げがJA口座に振り込まれたり、小麦の集荷をしてくれたりと、空気のような当たり前の存在でしたが、青年部に入って学ばせてもらい、自分たちがお金を出し合って(出資)、自分たちで相談して代表者を決め、自分たちが利用する純粋に組合員のための組織であることを知りました。
宅地並課税反対運動は、ムシロ旗やトラック・トラクターで街頭(霞が関の官庁街)をデモ行進し訴えましたが逆効果でした。都市農家のエゴだ、値上がり待ちの売りおしみだ!などとメディアの反応は全く厳しいものでした。NHKまでが「土地は誰のものか!」などと云うスペシャル番組を組む始末です。多勢に無勢。とても勝ち目はありませんでした。
戦法を変えざるを得ませんでした。原点に帰ろう、都市の中の農地の役割を明確にする。その存在価値を都民の皆さんに理解してもらう運動を考えようということになりました。今で言う、都民理解の醸成です。
◆市民とともに―地元青年部の活動
東京都三鷹市では、行政主体で"都市農業を育てる市民の集い"というイベントを30年以上続けています。夏休みに市内の小学生親子や消費者団体の方とバスで三鷹市内の農産物を収穫し、市内産の夏野菜(トマト・枝豆・じゃがいも・トウモロコシ)で昼食会を開きます。青年部員からはクイズを出題。子供たちからの質問も受けます。
青年部は他に学校農園の指導役をしたり、農の風景画コンクールを開催したりして優秀な絵を食育カレンダーに掲載。学校給食の食材提供で栄養士さんとも交流し、食育カレンダーで市内産野菜を使った料理のレシピを提供することで都市農業の理解者は着実に増えています。
都市農業の必要性を訴え続けた効果の極めつけは、何といっても東京都内38の自治体の区長・市長・町長に作っていただいた「都市農地保全推進自治体協議会」です。毎年、農水省、国交省などへ都市の中の農地の重要性を理解していただく運動を展開していったことが「都市農業振興基本法」の成立に寄与したと思っております。
(写真)青年部の都市農業を守る運動が「都市農業基本法」につながった
◆他業態との交流大切―今後のJA青年部活動
私は平成29年8月からJA全中の副会長をしております。副会長就任以降、全国のみなさんの声を謙虚に傾聴し、ともに農業についてしっかり勉強してきました。日本の農業の素晴らしさをあらためて認識するとともに、日本に農業を残していくためには、やはり後継者がいなくてはならないと痛感しております。
若い人には、私たちの世代と違う視点で農業を実施して欲しいと考えています。というのも、これから大事なことは、それぞれに地域において必要とされる農業です。東京都では、行政側も都市における農業の重要性やその社会的使命をよく認識していますが、これは、農作業体験や憩いの場、災害のときの避難場所などを提供する「空間」としての農業で、私たちの世代の職業としての「業」とは違いがあるように思います。
長男も、青年部活動をしていますが、私たちの時代との違いは他業態の人とつきあっているということです。地元の野菜を使ったお菓子屋さんなど商工会のみなさんや、地元の国際基督教大、東京農工大と連携して、キャンパスの落ち葉や乗馬クラブの馬糞、わが家の剪定枝を使った堆肥づくりなどをやっています。それを地域の農家が応援しているのです。それを私たちの世代は、最初は、多少のジェラシーを込めて見ていましたが、改めて、若い人にこうしたつきあいの大切さを教えられた思いです。
私たちが何をしなければならないのか。私たち農家だけがいくら騒いでも農家のエゴだという評価で終わってしまいます。私たち農家は誰のために食を作っているのか。多くの国民のみなさんのためです。だから国民、消費者のみなさんにこの国がこのまま先に行ったらどうなってしまうのか、ここをしっかりと青年部の皆さん、JAグループが訴えていくということが絶対に大事だと思います。
これをしなくては、日本農業は新しい時代へと繋ぐことができないと思います。「繋げない」、そんなことがあっていいわけがありません。
青年部の皆様には、ぜひとも地域の他業種の方との交流を持っていただき、地域を大切に想い、地域に貢献する喜びを感じていただきたいと思います。
(写真)農業祭などで市と一緒に農業の大切さをアピール
◆地域づくり 今こそ青年の力を
昨年12月にはTPP11が発効し、2月1日には日欧EPAも発効しました。今後は日米物品交渉(TAG)も開始され、いまだかつてない農産物自由化の波が押し寄せ、日本の農業は一層厳しい状況をむかえることになります。
今我が国では農業人口は残念ながら減少の一途をたどっています。しかし世界をみれば年々ひどくなっている自然災害、大きな台風、集中豪雨、一方では干ばつなどの被害は拡大し、農業の将来には大きな不安があります。そして消費の面ではアフリカ、アジアなどでは爆発的に人口が増加し、食生活の変化に伴う食料の逼迫する状態は今後ますます厳しくなります。
我が国も先進国の中では最低の食料自給率は国民の食料を安定的に供給することが危惧されます。
今こそ食料の安全保障の必要性を国民=消費者に訴え、食を軽んじた国は亡びる! と声を大にして訴える時です。それには前述した様に私たち農業者だけの訴えでは大きなうねりにはなりません。国民理解の醸成運動としての取り組みがなければ農業人口の減少阻止と=日本の食料安全保障の確立にはなりません。今こそ、将来を担う青年の力が求められる時です。
我が国はスマート農業を国策としても推奨しています。ロボットやAI、IoTを活用し農作業の省力化、高品質生産を実現する農業です。若い力と近未来型農業技術がコラボして元気な日本農業になる事を願っています。
【略歴】
昭和23年生まれ。
46年に就農し、旧三鷹市農協青年部部長、平成4年JA東京青壮年組織協議会副委員長、11年JA東京むさし理事、20年同組合長などを歴任し、26年6月にJA東京中央会会長、29年8月JA全中副会長に就任。
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