◆打開策見いだせない参加国
米国のUSTR(米通商代表部)は、7月上旬、「米国の目標に合致」するとして議会にカナダとメキシコのTPP交渉参加を通知した。その後、米国のいわゆる「90日間ルール」を経て、メキシコは10月8日に、カナダは同9日に参加が認められた。
外務省によると米国議会ではとくに異論は出なかった模様だという。一部にカナダは乳製品等の全国的な需給調整を行う「供給管理制度」の見直しを行うことを米国に約束したという、いわゆる「前払い」に応じたといった報道がなされているが、外務省によるとカナダ政府は「交渉前に何らかの約束はしない」が公式の立場だという。
この2か国は12月3日からニュージーランド・オークランドで開催される第15回会合から参加する見込みとなっている。
ただ、交渉は難航しているとみられている。9月6日から米国で開かれた第14回会合後の記者会見では交渉妥結につながる具体的な進展は示されなかったと伝えられており、市場アクセス、知的財産、競争政策、原産地規則などの分野では依然として参加国間の対立が解消されておらず、JA全中は打開策が見いだせていない模様と分析している。
◆米国に姿勢に反発
対立が強まっているのは米国の交渉姿勢にある。
米国はすでに締結している米豪FTAで砂糖を関税撤廃の除外品目にしているが、豪州はこれをTPP交渉で対象とするように要求。しかし、米国は「すでに締結しているFTAについては再交渉しない」と拒否している。これに対して豪州の糖業連盟は9月19日に「関税および関税割当は21世紀型の貿易協定にはそぐわない」などとする抗議声明を発表した。
また、乳製品についても米国乳業団体はカナダに市場を完全開放するよう求めている。その一方で競争力にあるニュージーランドの農協系企業のフォンテラ社に対して競争条件の公平性を担保するよう要求している。
これを受けて米国政府は「競争政策」の分野でフォンテラ社に対する規制を盛り込もうと検討、ニュージーランドは反発を強めている。また、豪州は米国が行っている輸出信用への規制を議論すべきと主張して対決姿勢を強めているとされる。
このように対立が続くなかで9月6日に開催されたTPP参加国の閣僚会合で発表された首脳声明などでは「年内にできる限り多くの章をまとめる」などとの表現ぶりで、事実上、年内合意は見送られたとみられる。
新たな妥結目標時期は、これまでのメキシコの大統領やニュージーランドの貿易大臣などの発言から2013年末とされている模様だ。
なお、TPP交渉に参加するには現在の参加国すべてから合意を得る必要があるとされている。そのため日本の参加には新たに交渉参加国となったカナダとメキシコからも同意を得る必要がある。ただ、この点について外務省担当者は「日本への対応は改めて11か国側が決めること」と話し、今のところ動向は不透明だ。
◆慎重派議員、政府に反発
国内ではJA全国大会あいさつでも野田首相はTPP参加に意欲的なことを示したように警戒感が強まる(関連記事)。10月10日には議員連盟、TPPを慎重に考える会が開かれた。
この日はTPP交渉参加に向けた事前協議を担当している政府代表の大島正太郎氏からヒアリングする予定だった。しかし、姿を現さず、会代表の山田正彦元農相は「野田首相は情報を開示して国民的議論をするといっている。説明を受けるのが当然ではないか」と欠席した理由を問いただした。
これに対して内閣府の担当者は会からの大島氏出席要求の件は「前原大臣まで上がった案件」と説明し、前原誠司国家戦略担当相以下、政務三役の判断だったとした。
その理由として内閣府は大島氏は事前協議の代表者であり、国内での情報提供や説明の担当者ではないことなどを挙げた。
これに対して参加議員は猛反発。「馬鹿にしていると思わないのか」、「なぜ説明に来られないのか、もっときちんと説明すべきだ」などの意見が出たほか、「国民的議論とは何か、いかなる方法で行うのか、政府はきちんと文書で示せ」といった指摘も出た。また、前原大臣の判断が問題だとする意見もあった。
これらの指摘について内閣府は「(情報は)出せるものは出す」、「今年の2月から国民への説明はしている」などと回答するだけだった。
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