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主要5政党の食料・農業・農村政策を聞く
【総選挙直前】各党の農政公約のポイントと選挙での問い

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【総選挙直前】主要5政党の食料・農業・農村政策を聞く 農業の復権と食料の安定供給のための選択

・自由民主党参議院議員 山田俊男氏
・公明党前衆議院議員 西博義氏
・民主党参議院議員 平野達男氏
・共産党参議院議員 紙智子氏
・社民党前衆議院議員 菅野哲雄氏

 本紙は昨年10月、創刊80周年記念特集号の企画のひとつとしてインタビュー「主要5政党の食料・農業・農村政策を聞く」を掲載した。企画の意図は衆院解散、総選挙は間近かとの見通しからだ。

問われる農政の重み

 

asou.jpg 本紙は昨年10月、創刊80周年記念特集号の企画のひとつとしてインタビュー「主要5政党の食料・農業・農村政策を聞く」を掲載した。企画の意図は衆院解散、総選挙は間近かとの見通しからだ。
 結局、解散・総選挙はこの8月まで先送りされたが、この間、周知のように100年に1度と評される世界的な金融危機、経済不況が深刻化。景気後退から年末にはいわゆる派遣切り、雇い止めが大きな社会問題となるなど、わが国の経済社会の危機が深まった。こうしたなか、食料の安定供給への期待はもちろん農林業が雇用の受け皿として注目されるなど、農業、農村の価値が見直されている。
 しかし、生産資材価格高騰の一方、消費不況で農産物価格は下落、農業経営は厳しい実態にある。
                                    ◇
 今号では総選挙を前に昨年、インタビューした5氏に改めて各党の農政公約のポイントと選挙で問われることを聞いた。
 山田俊男・自民党参議院議員は、同党の政策は水田フル活用政策が基本と強調したほか、農山漁村の再生のために経済運営全体が外需依存から内需創出へと向かうべきで、現在はそのチャンスであるとも指摘した。
hatoyama.jpg 西博義・公明党前衆議院議員は、党の公約で農政を前面に出したとし、経済活性化の起点として農業を位置づけるとしている。
 一方、平野達男・民主党参議院議員は農産物輸入自由化を進めてきた自民党農政の総括と同党の農政の柱、農業者戸別所得補償制度について国民の評価を問いたいと語る。また、日米FTAの問題はインタビュー後に同党がマニフェストの修正を表明したことから、その部分を記載した。
 紙智子・共産党参議院議員は、ルールある経済社会をつくるための選択、と選挙を位置づける。農政では米価暴落の対策も問われるとして政府による備蓄米の早急な買入も争点にすべきだと強調した。
 菅野哲雄・社民党前衆議院議員は、農家に力をつけるために本格的な直接支払い制度の導入を実現することが必要だと強調した。
 なお、昨年秋の5氏へのインタビュー記事は本紙ホームページ「JAcom」で読むことができる。
 山田俊男 氏
 西博義 氏
 平野達男 氏
 紙智子 氏
 菅野哲雄 氏

 

 (各政党のマニフェストについては、クローズアップ農政から)

 自由民主党

水田フル活用を定着させる
参議院議員 山田俊男氏

 市場原理主義、脱却

自由民主党参議院議員 山田俊男氏 解散当日の両院議員懇談会で麻生総理は「行き過ぎた市場原理主義から脱却する」と語った。もっと早い段階で表明すれば国民からもっと評価されたと思う。
 私はかねてから、経済財政諮問会議が主張する競争の導入では農業の着実な発展は実現できないと訴えてきていたが、麻生総理はメンバーを一新した。民間議員も地域を元気にするには農業を元気にしなければ、と主張を転換した。
 骨太方針2006で福祉、医療費を2200億円削減するとされていた問題も、必要なものは措置することに戻した。15兆円の補正予算には1兆円を超える農業対策を盛り込み、農業予算の減少に歯止めをかけている。総理は構造改革の負の部分を背負いながらもそれなりに市場原理主義から脱却する対策を講じてきた。

基本は水田フル活用

 しかし、農政では、石破農相の生産調整見直し発言をマスコミが「選択制」とはやし立て、年の初めから議論を混乱させてしまった。
 結局、党としては水田フル活用対策が基本であり、生産調整の着実な実施とそのための飼料用米、米粉、それから麦、大豆に思い切った対策を講じた。これを継続させるため基金方式とした。これが十分農業者に伝わっていないのは極めて残念で、改めて対策を講じていくことが求められる。
 担い手問題については参院選での批判を受け、ただちに内容を見直して地域の実態に応じて認定されれば規模や年齢に関わりなく対象にすると決め、すでに実績も上がってきている。これを定着、推進していくことが大事だ。
 世界的金融危機のなかで、輸出企業がいっぺんに破綻し、いちばん先に派遣切りを行った。経済政策の基本を内需中心に転換していくことが必要で農政でも耕作放棄地解消や新規就農で雇用を確保していく。今こそ内需重視の政策実行のチャンスだ。

自由化前提か民主党

 ところが、民主党は日米FTAを締結するという。公約に掲げたことで同党の政策は農産物自由化が前提だということが明確になった。
 それに気づいたのは7月の参院経済産業委員会で急遽提案された付帯決議だった。内容は米国、中国とのFTA締結だ。反対は私だけだった。説明した民主党委員は輸出大企業労組出身で、日本は自動車、電気製品などの輸出で成長し、今後も一層輸出対策が重要になるが、邪魔しているのが農業だ、との主張だった。
 日米FTA締結となればカナダ、豪州もだまってない。世界中に日本の食と農を売り渡すことになる。農業者の切実な要求よりも、むしろ大規模輸出企業の労組等の意向が強く働いているのだと思う。民主党でも農村出身議員は納得できない話だと思うが、では、いったいこの党はどういう党なんだと言わざるを得ない。農業者も考えなくてはいけない。
 1年前の洞爺湖サミットでは主要各国が農業生産の強化に合意した。それを忘れてしまっているのではないか。
 大企業が輸出を拡大し経済を回復させればいいと考えているのであれば誤りを繰り返すだけだと思う。

 

 
公明党

農業を起点に経済活性化を図る
党農林水産部会長 前衆議院議員 西 博義氏


緑の産業革命と農業

公明党前衆議院議員 西博義氏 マニフェストでは4つの重点政策を示し、そのひとつに「緑の産業革命」を掲げた。これは新しい時代のあり方をふまえて環境・農業分野で経済成長を生み出そうという考えである。
 たとえば、環境分野では太陽光発電、エコカー、エコ家電という“エコ3本柱”の推進を図る。
 もうひとつは食料自給率50%のために全力を上げることや、水田フル活用で農業を産業として自立をさせていく農業政策も位置づけている。
 食料自給率の向上や農業所得を向上させるためには需要拡大対策と販売対策が重要である。米の活用や地産地消の推進を図っていきたい。
 ほかに農商工連携と創業支援など中小・小規模企業の活性化で地域経済を振興し雇用を拡大することも掲げているが、これも農業を起点とした産業振興策という考え方だ。
 直売所の整備をはじめ農商工連携で今までの流通形態も見直すと同時に、加工や販売まで含めた付加価値の高い農業を支援できればと思っている。
 環境に優しい農業の取り組みに対して直接支払いを行うこともわが党の特徴だと思っている。新しい農業形態、安心・安全な食料を供給するということに対しては土地利用型農業だけではなく、野菜・果樹・酪農・畜産も含めて直接支払いをするという政策でこれも強調したい。

米の収入減対策充実

 水田フル活用政策は重要だが、やはり主食用米の需要は確実に減り、米の価格が右肩下がりになっていくという傾向がある。米づくり農家には不安が残るし持続的な農業にならない。そこで今回は米の収入減少影響緩和(ナラシ)対策の標準的収入の算定を見直しセーフティネットを充実させることを打ち出した。
 標準的収入については、基準期間を長期にとるなど緩和がより行われるように見直す必要があるのではないかと考えている。
 それから米の生産目標については米を作りたい所と米以外を作りたい所との間で生産枠を受け渡す都道府県間の調整を進めて適地適作を進めていきたい。

農地利用集積進める

 これまで党として積極的に新しい農業形態を推進しようとしてきており、農地法改正の成立はその新しい農業の出発になると考えている。
 とくに意欲を持っている若い人たちは今回の農地法改正を非常に好意的にとらえている。また、補正予算で農地の出し手にも支援することになったことから、高齢農家など出し手には期待が非常に高く、農地が継続して使われることへの安心感も聞かれる。計画的な農地利用集積に資するように行政やJAが仲立ちをしてくれる仕組みも安心だという声も聞く。
 農地は集積に向かっていくのではないかと期待している。もちろんすべての自給的な農業をやっている方の土地まで含めて無理に集積していこうということでない。農地は貴重な資源である。公明党は農地の有効利用を通じて農家の経営強化や食料の供給力が向上することをめざしている。

 

民主党

農業者戸別所得補償制度への評価を問いたい
参議院議員 平野達男氏


自民党農政の総括を

民主党参議院議員 平野達男氏 総選挙の争点は、民主党が提唱する農業者戸別所得補償に対する評価、自給率の低下、農業者の減少、農村の衰退、これらをもたらしたこれまでの自民党農政の総括、ここに集約されると思う。
 国内農業を守るとの言葉とは裏腹に、一方で農林水産物の自由化を進めてきたのがこれまでの自民党農政。今やわが国の農産物市場は世界で最も開かれた市場といっていい。問題は市場解放だけして、その後の対策を何もしてこなかったことだ。
 EUも米国も関税引き下げを行ってきたが、安い農産物に対抗し直接支払い制度を導入、国内農業保護と農業振興を図った。

自由化前提ではない

 日本は貿易立国であり、貿易による恵みを受けてきた。貿易のさらなる促進は、わが国の国益にかなう。WTO、FTAについて民主党は従来から推進の立場をとってきた。
 さらにFTAの推進にあたっては、農林水産物に関して米など重要な品目の関税の引き下げ・撤廃を行わないことを条件に進めることも、従来からの一貫した方針。政府が日豪EPA交渉を始めるにあたり、重要品目を対象外とすべきといち早く表明したのも民主党だった。
 日米FTAに関し、マニフェストの一部の表現から、農家の方々にご懸念を抱かせてしまった。FTAに関しての従来からの方針を分かりやすくするため、文言の修正を行った。自民党などからの的外れの批判には毅然と対応する。

直接支払いを実現

 農業者戸別所得補償は、生産費が農家の販売価格を上回る作物を対象に一定の補てんを行う制度。米は、米価下落で自家労賃も出ない状況が続いている。これでは若い人が米づくりに魅力を感じなくなる。麦、大豆は増産が必要だが、生産費と販売価格差はさらに大きい。だから、直接支払いを導入しようというもの。
 戸別所得補償の考え方は、今回、畜産・酪農などにも広げることを打ち出した。たとえば、酪農家が飼料価格の高騰などで経営が圧迫されたが、これが恒常化するような場合には、同じような直接支払いをする必要があるということだ。
 財源については優先順位を見直し、予算を根本的に組み替えて対応する。(了)
                                                  ◆ ◆ ◆
 民主党は8月7日、FTAに関して7月27日に発表したマニフェストの一部を以下のように修正することを発表した。
 外交の部分の
「51 緊密で対等な日米関係を築く:米国との間で自由貿易協定(FTA)を締結し、貿易・投資の自由化を進める」を「51 緊密で対等な日米関係を築く:米国との間で自由貿易協定(FTA)の交渉を促進し、貿易・投資の自由化を進める」と「締結」を「交渉を促進」とした。
 同時にその後に「その際、食の安全・安定供給、食料自給率の向上、国内農業・農村の振興をなどを損なうことは行わない」を加筆した。
 また「52 東アジア共同体の構築をめざし、アジア外交を強化する」の部分にも同様の加筆を行う。(編集部注)

 


日本共産党

米価暴落対策も争点
参議院議員 紙 智子氏

価格保障と所得補償

共産党参議院議員 紙智子氏 自公政権を終わらせる審判を下し、新しい日本の針路を国民に選択していただくのが今回の総選挙。新しい針路とは、国民の暮らしと権利を守る、きちんとしたルールある経済社会を築いていくことだと訴えていきます。
 農林漁業政策では食料自給率50%台の回復が最優先です。
 そのためには安心して農業に励めるよう「価格保障・所得補償」を組み合わせた2本立ての政策が必要だというのがわが党の考えです。価格の低迷が農業の衰退を招いてきたわけですし、これは農産物輸出国でも導入している政策です。
 経済危機の影響の広がりで若い人たちが働ける受け皿としての一次産業がクローズアップされていますが、新規就農者にとってもこうした価格政策がしっかりしていなければ営農継続はできません。

改正農地法と米対策

 政府の農地法改正の趣旨は耕作放棄地が増えており、高齢化で若い担い手が育っていないから、もう株式会社でも参入できるようにしたほうがいい、ということでした。しかし、耕作放棄地が増えた本当の理由は結局、価格が低迷し採算が合わなくなったから。それは輸入自由化路線を進めてきたからで、そこにかみ合った対策を本来は打ち出すべきです。
 今回の法改正で企業も農地を借りて農業ができるようになり、さっそく大手量販店や商社が乗り出してきています。しかし、国会の参考人質疑でも企業担当者は耕作放棄地など悪い土地への参入では赤字、優良農地でなければ利益が出ないと本音を話していました。
 これを考えるとがんばってきた農家の方が閉め出されることも考えられます。今後も監視が必要です。
 緊急の問題は米価暴落です。高知の南国育ちが前年比で60kg2500円安、宮崎のコシヒカリも1600〜1800円安です。早場米でこうですから、この後の新米価格の下落を止められないのでは、と心配しています。対策をいち早くとらなくてはいけません。
 今、強調しなければならないのは米価暴落に対して早く対策をとり、少なくとも政府が決めている適正備蓄水準の100万トンに足りない分を緊急に買い入れるべきです。

民主党には提言する

 民主党が戸別所得補償法案を提出した07年秋の国会では輸入自由化が前提なら価格がどんどん下がり、それにともなって補償額が増え結局は破綻すると指摘しました。これに対する答弁は、国境措置は現状維持が前提で、これ以上の自由化は考えていない、でした。 しかし、マニフェストで日米FTAを締結すると言ったわけですから、一体、党としてまとまっているのかと心配になります。
 民主党の政策は自民党のようには農家を差別、選別しないという点などで一致するところもありますが、FTA締結は日本農業に壊滅的な打撃を与えることになるもので、わが党は反対します。民主党の菅氏が「農産物については対象からはずす」と言っていますが、それはあり得ないこと。農業のためになるものには賛成し、いっしょに実現のために努力しますが、ためにならないことには反対し是正させていきます。

 

社会民主党

農政の抜本改革、実現を問う
党農林水産部会長 前衆議院議員 菅野哲雄氏


直接支払いの制度化

社民党前衆議院議員 菅野哲雄氏 政権が変わったならば、まさに農業を抜本的に変えていくことになるのが今度の総選挙だと考えている。
 補正予算では水田有効利用対策として米粉や飼料用米に対して10aあたり8万円を出すとしているが、農家の人たちは全然ありがたがっていない。その理由は「来年はどうなるの?」というものだ。
 50年は変えないというぐらいの農業政策の確立が現場から求められている。新たな政策の枠組みを作るには、恒久的な制度をつくるべきだ。その枠組みのなかで一戸あたりの支援額が上下することはあるにしても、制度としてつくりあげ、それに予算をつけていくという仕組みをつくれば農家の人たちは本気になると思う。
 本格的な直接支払い制度を制度化すれば、徐々にだが体力はついてくると思う。
 経済危機で農業での雇用も期待されているが、体力の少ない、あるいはなくなっている農業に、今の派遣切りの若者たちを雇えと言われても雇う体力がない。農業者戸別所得補償制度はもともとは社民党が骨格を打ち出したもの。だから何としても総選挙以降、これを確立できる状況にしたい。

EPA締結は絶対回避

 ただし、われわれは日豪EPAでも日米EPAでも、これを締結してしまえば日本の農業は崩壊してしまうとずっと言い続けてきた。 なぜ、民主党が日米FTA締結をマニフェストに盛り込んだのか。腑に落ちないし、怒り心頭だ。
 日豪EPAは協議には入ったが暗礁に乗り上げている。しかし、一度協議に入ってしまえば農業分野だけ別扱い、とは絶対にならないということだ。必ず農業を含めて議論されていく。FTAの問題は入り口でストップをかけるしかない。
 直接支払いを実施して体力がつけば自由貿易にまかせてもいいとの考えもあるようだが、それで1兆円の予算が2兆円に膨らめば国民に批判されてしまう。自由貿易締結など絶対にやってはならない。

農家の選択で所得向上

 自給率向上のためにわが党は強制的な減反の廃止も掲げている。直接支払いで体力をつけるなかで、農家自身が自ら考えて所得を増やす仕組みにしていくべきだと考えている。米だけではなくて米粉、飼料用米、麦、大豆など自ら考えてどれがいいのか選択できる状況になったならば、必ず自給率は上がっていくと思う。とくに油脂類の自給率が非常に低いが、消費量も多いのでここの自給率を高めると全体の食料自給率向上につながっていく。
 だからもう一回、春の風物詩、ナタネの風景を再現したい。地域でナタネ油を搾る体制が崩壊してしまったわけで、ナタネにも直接支払いを検討し生産を拡大していくなど、具体的な方策も考えていくべきだと思う。
 農山村社会は日本にとっての貴重な財産。中山間地域を大事にすることが農村文化、地域文化を守る原点になる。地域社会を維持していく価値はお金で推し量れるものではない。国民全体の合意のもとで日米、日豪EPAを阻止していきたいと改めて考えている。

(2009.08.12)