(056)『魏志倭人伝』:「時に當たりて肉を食わず」2017年11月10日
まさか自分が再び原文を読むとは思ってもみなかったが…。
先日、図書館で岩波文庫の『魏志倭人伝』(注1)を借りてきた。中学時代の歴史の知識というのは結構役立つことがあり、『後漢書東夷伝』とか『魏志倭人伝』など書名だけは覚えているものが未だにいくつかある。「金印」などは多くの人が覚えていると思う。
さて、日本人がいつ頃から肉を食べていたかについて、考古学上の知見は数多くあるが、文献上最古のものは何かと考えた末、確かどこかで読んだと思い、結局『魏志倭人伝』に行きついた。文庫版には京都大学名誉教授の石原道博博士による中国の正史に関するわかりやすい説明があり、軽く目を通した。古代から近代に至る中国の正式な歴史(正史)は28、そのうちわが国について言及されているものは18あり、それが一覧表になっている。
また、「通称『魏志』倭人伝といわれる記事は、晋の陳寿(233-297)のえらんだ『三国志』のひとつである『魏志』巻30・東夷伝・倭人の条をさすのであるが、この大半が魚豢の『魏略』によったことはうたがいない」との記述がある。つまりタネ本があったということだ。
なるほど、これはこれで興味深いが、問題は当時の日本人の風俗・習慣に関する記述である。さすが、今も昔も中国人は相手をよく観察している。現代風に言えば、当時のグローバル化の中で中国人から見たローカルな風習ということになる。
※ ※ ※
『魏志倭人伝』自体は漢文で2000字程度であり、訳文があるため比較的読みやすい。目当ての箇所は比較的簡単に見つかった。
「始死停喪十餘日當時不食肉」(注2)
これは、人が亡くなったときの対応を記しており、書き下し文では、「始め死すると停喪(ていそう)十餘日、時に當たりて肉を食わず」(注3)とされている。これを、「(人が)死ぬと、十日ほどは喪に服し、その間は肉を食べない」という形で現代語にすると、漢文の試験では恐らく減点されることになる。いわゆるひっかけ問題と言えるかもしれない。
実際、同じ本の現代語訳では、「死ぬとまず、喪に服するのを停めて仕事にしたがうこと十余日、その期間は肉を食べず」(注4) とある。ここで「喪に服するのを停めて」や「仕事にしたがう」という表現の意味を古文・漢文の時間に堂々と質問が出来るほど当時の筆者には知識も度胸もなかったと思う。
今であれば、これは殯(もがり)、つまり古代の葬儀儀礼であり、故人の死を悼みつつも完全な死(つまり遺体の腐敗)を確認するまで、葬儀を先に延ばして行わないこと、これこそが喪を停めること(=停喪)であるとわかる。現代の通夜はこの名残のようだ。
いずれにせよ、この最後の部分の意味は、それ以外の時には肉を食べても良いということであり、当時の我々の先祖は肉を普通に食べていたということを示している。
※ ※ ※
邪馬台国の女王である卑弥呼が生きていた時代は2世紀から3世紀である。その後、天武天皇の4(675)年に有名な殺生禁止令が出され、8世紀には何度も肉食や殺生禁止の令が出されている。これも原本は見ていないが、約1,200年の時を経た明治5(1872)年、『明治天皇紀』によると明治天皇が初めて肉を食べたようで、それをきっかけに世間では肉食完全解禁となったとの記述がいくつかインターネット上に見られる。
1000年以上前から何度も禁止令が出されるほど、人々はそれなりに(密かに?)肉を食べていたこと、ようやく堂々と食べられるようになったこと、そして今ではわが国の農業総算出額8兆8000億円(2015年)の35%を畜産が占め、最大の分野であることなど、時の流れを見るのは感慨深い。
注1:石原道博編訳「新訂 魏志倭人伝 他三篇」、岩波文庫、2006年(第76刷)
注2:同書、109頁。
注3:同書、46頁。
注4:同書、81頁。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
(関連記事)
・日本一の肉で作る日本一の山 JA宮崎経済連(17.10.03)
・〝人生三毛作〟中国で肉用牛 組合長を退任後挑戦-福島・JA東西しらかわの鈴木氏(17.09.05)
・牛肉セーフガード 14年ぶり発動-農水省(17.07.31)
・好値に期待 JA東西しらかわがモデル農場の子牛初出荷(17.07.05)
・採卵事業で 和牛と酪農の生産基盤を強化(17.04.04)
・【シリーズ・食は医力】第72回 ゴマだって「畑の肉」(15.04.15)
重要な記事
最新の記事
-
「農業者のための農協」貫く(2)JAみっかび組合長 井口義朗氏【未来視座 JAトップインタビュー】2025年3月4日
-
政府備蓄米売り渡し 2回目入札6万t 速やかに準備を 江藤農相指示2025年3月4日
-
創刊100周年 第66回全国家の光大会レポート2025年3月4日
-
7年産主食用米高騰の弊害を考える【熊野孝文・米マーケット情報】2025年3月4日
-
「JA全農杯全国小学生選抜サッカー大会」東北代表チーム決定 優勝は「Renuovens Ogasa FCジュニア」2025年3月4日
-
「JA全農杯全国小学生選抜サッカー大会」関西代表チームが決定 優勝は「ヴィッセル神戸U-12」2025年3月4日
-
【人事異動】全農(4月1日付)2025年3月4日
-
【人事異動】全農(4月1日付)2025年3月4日
-
造粒加工適性が大事 肥料メーカーからみた原料堆肥との向き合い方2025年3月4日
-
ベランダで米づくり「バケツ稲づくり」個人申し込み受付開始 JAグループ2025年3月4日
-
光選別機「ペレットソーターII」新発売 サタケ2025年3月4日
-
圃場登録機能を搭載した新型自動操舵システム「コムナビAG501」発売 HOSAC2025年3月4日
-
消費と生産をつなぐ生協の実践を報告「有機野菜技術フォーラム」登壇 パルシステム2025年3月4日
-
飼料メーカー専用品「マイクロライフ プライム」発売 東亜薬品工業2025年3月4日
-
牛乳にまつわる話だけのSNS漫画雑誌『週刊土日ミルク』第2号発行 Jミルク2025年3月4日
-
宇宙×園芸の未来を拓く「千葉大学宇宙園芸国際ワークショップ2025」開催2025年3月4日
-
鳥インフル 米ニュージャージー州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年3月4日
-
高校生が森・川・海の「名人」を取材「第23回聞き書き甲子園」優秀作品を決定2025年3月4日
-
香港向け家きん由来製品 茨城県からの輸出再開 農水省2025年3月4日
-
プラントベース「ナチュレ 恵 megumi 植物生まれ」リニューアル 雪印メグミルク2025年3月4日