◆建設・医療団体も参加
この日、日比谷野外音楽堂に集まったのは、立ち見も含めて3000人を超えた。各消費者団体のほか、建設業関連団体や医療団体からの参加もあり、TPPへの反対運動が広く国民各層へ浸透しつつあることを印象付けた。
主催者を代表しJA全中の萬歳章会長が「本来地球より重いはずの人間のいのちを目先の経済的利益を優先するためにないがしろにすることは果たして許されるのか。日米首脳会談のおみやげにするほど軽いものではないことをすべての国民のみなさんと共有したい」と訴え、「政府は日本人の安心安全な食と暮らし、いのちを守る方向とはまったく逆の道となるTPP交渉参加への検討に直ちに終止符を打ち、大震災と原発事故からの復旧復興と持続可能な経済社会、お互い支え合う社会に全身全霊を傾注すべきだ」として、「TPP交渉への参加阻止を実現するまで、徹底的に闘う」と力強く宣言した。
また、沖縄の離島の村長や農業タレント、鈴木宣弘・東大教授まで幅広い層からTPPへの断固反対を訴えるメッセージがリレーで叫ばれ、交渉参加と阻止に向けて団結を呼びかけるたびに会場からは拍手が沸き起こった。
◆「美しい農村」をどう守る?
集会では、野田首相が昨年11月11日の会見で「断固として守り抜く」とした「世界に誇る医療制度、日本の伝統文化、美しい農村」をどのようにして守るのかの説明がなく、このまま国民合意がない状態でTPP交渉への参加を表明することは「国民への背信行為」であるとして、TPP交渉への参加は、▽充実した医療制度の維持、すべての人のいのちと健康を守ること、▽食の安全性の確保、安心な食生活の実現、地域経済を守り雇用を安定させること、▽農林水産業の復権と自給率向上、食料主権の確立など、国民の願いに逆行すると訴える「集会アピール」(下に要旨)を満場一致で採択した。
集会後には日比谷公園から首相官邸前、国会議事堂前を通って永田町までTPP交渉参加断固阻止を訴えてデモ行進。沿道の人々や、議員会館前で前日より座り込みを断行しているJA青年部から「がんばれよー!」との応援の声が幾度となくあがった。
【リレーメッセージ】
「国土継承は政府の仕事だ」
JA全青協会長・牟田天平氏
一国民として暮らし、食、いのちをそれぞれの地域で守っていかなければならない。それはわれわれ自身でもあるが政府の仕事ではないのか。今政府は何をやっているのか。
「復興よりなぜTPP?」
宮城県生協連常務理事・加藤房子氏
震災から1年たったが復興どころか復旧すらすすんでおらず、まだ将来に展望を見いだせない人が多くいるのが実態。震災で格差はより広がり生活保護の受給も増えている。なぜ今TPP交渉参加か? まず国がやるべきことは国民の暮らしといのちを守ることではないのか。
「資源の乱獲をも引き起こす」
JF全国漁青連会長・角好美氏
水産物の関税が大幅に引き下げられた結果、安い輸入水産物によってわが国水産業は追い込まれ続けてきた。
世界の水産資源の4分の3は過剰漁獲、約4割が輸出向けだ。さらなる自由化は輸出目的の乱獲を引き起こす。漁業先進国のわが国は水産資源の持続的利用に反する自由化を推し進めることがあってはならない。
「消費者の利益につながる、は幻想」
主婦連合会事務局長・佐野真理子氏
TPPは消費者にとって極めて危険な協定。第1に長年かけて獲得した消費者関連制度を切り崩してしまう、第2に消費者政策の決定を他国に譲り渡して消費者の権利を奪う、第3に消費生活の安心安全を有名無実なものにし消費生活を一層深刻にさせる。
TPPに参加すれば消費者の利益につながると主張するが冗談ではない。安いものだけを与えていれば喜ぶという消費者蔑視の主張だ。消費者の利益につながるというのはまったくの幻想だ。
「国家の安全保障にも関わる問題」
沖縄県南大東村村長・仲田建匠氏
TPP参加によって住民生活が脅かされ、町村の存続に大きな危機を迎えることは目に見えている。国家の安全保障にも関わるゆゆしき問題だ。私たちの生活が一変することは絶対に許されるものではない。
「食の自給なくして国の自立なし」
青森大学教授・見城美枝子氏
「TPP」と簡単にいうがこの言葉に略されている意味を忘れて語られたら日本の先行きは危ない。TPPに参加しようという他国には“どうしたら国益があがるのか”というきちんとした「戦略」がある。しかし日本はその戦略が何なのか。 「食の自給なくして国の自立なし」。自立した国にするために基幹産業である農業は大事。TPPに日本を幸せにする戦略があるのかと問いかけたい。
「将来に希望を持てる体制づくりが優先」
農業タレント・あゆかさん
TPPで労働賃金も安くなると思う。20年後を考えると生活の質は下がるのでは。自分の子どもを育てていくことを想像するとものすごく不安に感じる。 エコポイントは2年で5兆円の国費が動いそうだ。が、TPPは10年で2兆円くらい?。こんな政策をやる必要があるのか。国民が安心し、若い世代が将来に希望を持ち、農家が安定した生活を送れる―そんな体制づくりを整えてほしい。
「TPPを食い止めることが政治の使命」
東京大学教授・鈴木宣弘氏
TPPで利益を得るのはごく一部の大企業や官僚など。このごく一部の利益のために多数の人が雇用を失い食料や医療が十分に受けられなくなるような格差社会の拡大がこれ以上許されるのか。TPPは日本社会のシステムをガタガタにしてしまう。TPPは失うものが過去最大、得るものは最小という史上最悪の選択肢だ。
TPPと距離を置き、日本、アジア、世界にとって均衡ある社会の発展と人々の幸福につながる本当の経済連携を率先して具体化し、史上最悪のTPPの拡大を食い止めることこそ日本の使命なのではないか。
【政党別あいさつ】
民主党経済連携PT幹事・篠原孝氏
1964年の木材自由化によって中山間地は疲弊し、実に7500もの集落が消失した。TPPによって農産物の関税が撤廃されれば、今度は集落に留まらず限界都道府県、限界市町村が日本中に生まれることになる。このままグローバリゼーションという名のアメリカナイゼーションが進めば、日本の分厚い中間層はなくなり、東日本大震災で世界中が感動した日本人の絆はなくなってしまうだろう。
国民新党幹事長・下地幹郎氏
私は沖縄県宮古島の出身で、サトウキビ畑に囲まれて育った。TPPによって離島や地方の農業が破壊されるのを断固阻止しなければいけない。今、農業政策で大事なのはTPPではなく、担い手がいなくなり、遊休農地が増え続けている農業を立て直すことである。
自民党副総裁・大島理森氏
自由民主党は、党の方針として例外なき関税撤廃をすすめるTPPへの断固反対を決議した。TPPをすすめることで、野田首相が何を守ろうとしているのか、私にはわからない。
公明党政調副会長・石田祝稔氏
みなさんの粘り強い運動によって、今日の集会のように幅広い分野の人たちの反対の声が増えていった。今後も反対の声をあげ続けてほしい。
共産党幹部会委員長・志位和夫氏
野田首相の言う「守るべきものは守る」は空約束だ。なぜなら「ルールづくりへの参加」の前にアメリカの要求をすべて呑むことが条件となっているからだ。また「国民への説明責任を果たす」という約束も、TPP交渉の内容が4年間は開示されないことから、それが実現できないのは明らかだろう。
社民党幹事長・重野安正氏
今、日本中がTPPに反対しているわけではなく、TPPを推進する団体もあり、賛否が分かれている状態だ。しかしTPPが成立し、アメリカの示す方向に国が進めば、日本中が窮することは明らかだろう。
新党大地・真民主幹事長・松木謙公氏
TPPがおかしなものだということは火を見るより明らか。もっとみなさんは自信をもって政治家を責めてほしい。それは当然の権利なのだから。例えば今日、この場に来ていない政治家に対して、どんどん責めていって要望を伝えていってほしい。
新党きづな代表・内山晃氏
今日もまたカリフォルニアでBSE感染牛が見つかった。BSEに冒された牛を食べた時、アメリカ人は6割が病気になるが、日本人の場合は実に9割が病気になってしまう。日本人とアメリカ人は違うのだ。TPP反対は日本人と日本という国を守るための戦いだ。
立ち上がれ日本代表・平沼赳夫氏
われわれ「立ち上がれ日本」は、TPPへの大反対を強く表明している! 以上。
【集会アピール】 (抜粋)
…総理、あなたはこの国の未来をどのようにお考えなのでしょうか。私たちは忘れてはいません。総理自らが「世界に誇る医療制度」「日本の伝統文化」「美しい農村」を断固として守り抜くとおっしゃったことを。
どのようにして、それらを守るのかの説明なくして、国民的議論などできようはずもありません。ましてや、国民合意なく、TPP交渉参加の表明をするとなれば、国民への背信行為と言わざるを得ません。
私たちの願いは、充実した医療制度を維持することで、すべての人のいのちと健康を守ること、食の安全性を確保することで、安心な食生活を実現すること、地域経済を守ることで、雇用の安定を図ること、国家の礎である農林水産業を復権することで、自給率を向上させ、食料主権を確立することです。
…わが国の形を一変させるTPP交渉への参加は、そうした私たちの願いと逆行するものであり、断固として反対します。私たちは、日本の食と暮らし・いのちを守るため、これからも国民各層との広範な連携のもと、全国各地で徹底した行動を展開していくことを決意し、ここにアピールします。
平成24年4月25日
TPPから日本の食と暮らし・いのちを守り「交渉参加表明」を阻止する国民集会
◇ ◇
議論よ起これ!議論を起こそう!
何年ぶりかの日比谷野外音楽堂は、萌え出たばかりの若葉に包まれ『TPPから日本の食と暮らし・いのちを守り「交渉参加表明」を阻止する国民集会』はまさに始まろうとしていた。心地よい春風と柔らかな光の下に3000を優に超す人々が集結。壇上には主催者も国会議員諸氏も揃った。
開始宣言を待たずに会場のあちこちでは拳をあげて「TPP阻止」の叫びも起こっている。
萬歳章JA全中会長の主催者代表挨拶は、規制緩和や安全性、この朝、報道されたばかりの米国BSE問題にも触れ、国民各層との連帯、TPPよりも復興を、との主張は参加者の胸に落ちるものであった。
続く8人のリレートークはいずれもTPPの問題性を明確にしていて、これがひとり農業や医療の問題ではないことを示した。私の強い関心事は主婦連事務局長佐野真理子氏の主張、すなわち営々と築き上げてきた日本の食品をはじめとする消費者の権利、食の安全性等がこの締結を機に一気に瓦解しかねないとの訴えである。
わが国の消費者保護、権利擁護諸制度は一日にして成ったのではない。長年の粘り強い運動によって勝ち取られてきたもの。「安いものが入ってきて消費者の利益になる」は消費者への侮蔑。安ければ良いのではない。消費者保護、権利擁護制度が「輸入障壁」として槍玉に挙がるのは必定。何としてもTPPを阻止しなければとの発言はかつて国民生活センターに身を置いた者として心にしみた。
かくして会場はTPP阻止の熱気に包まれた。
しかし、ある国会議員の挨拶にもあったが、この会場を埋めた人々には当然のTPP反対は会場外まで伝わっていない。
これをどうするか。TPPに入らなければ、「輸出が伸びず韓国に遅れをとる」「経済立国には必然の道」「農業は金をつぎ込んでも良くならない」「安いもの歓迎」の世評にどう切り込むかが私を含めてここに結集した人の課題である。時間は限られている。
小林綏枝・本紙論説委員(元秋田大学)
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