小面積の稲作経営にチャレンジする新規就農者2017年12月4日
30年産から米の生産調整政策が見直されるなか、稲作経営者にはどんな経営判断が求められるのか。今回は北海道の新規就農者がめざすビジョンから考えてみた。
◆経営継承事業を活用して北海道で就農
新規就農した若手農家の話を聞く機会があった。この若手農家は現在36歳で、大学こそ農学部卒だが、卒業後は大手製薬メーカーに勤めており、そこで知り合った奥さんともども会社を辞め北海道で昨年に就農した。就農と言っても自身は東京都出身で奥さんは兵庫県の出で、北海道には何の伝手もなかった。北海道で就農できたのは後継者のいない農業経営者から新規就農希望者への経営を引き継ぐ公的な制度「経営継承事業」を利用したことによる。
その若手農家Hさんの経営方針は稲作単作でかつ面積が少なくとも成り立つ経営と言うもの。そんなことが可能なのか聞き入ると、パソコンを片手にプレゼンテーションを始めた。それによると就農した場所は旭川から車で20分ほどの鷹栖町で、ここで10.6haの水田を耕作している。なぜコメにこだわったのかと言うと自身がコメ大好きで特にゆめぴりかが美味しいと思ったことと、コメは年間通じて販売できるという2点を挙げた。
この面積で経営を成り立たせるためには、1俵2万1600円で販売することが前提になる。Hさんは消費者への直接販売で450世帯がその価格に見合う精米で購入してくれれば経営が成り立つという。それを成り立たせるためには何といっても営業力が必要で、まず、製薬会社勤務時代に培った人脈を活用、鷹栖町に招き、同僚や医師など80人が訪れ、その人たちが顧客になった。また、北海道で開催された出身大学の父母の会では、自身の就農の経緯を話し、そこで30人からコメの注文を受け、出来秋に200俵の売り先を確保した。さらには東京でも営業活動を行っており、なんと銭湯に自社のコメ作りの様子を記したポスターを張り、そこに注文用紙も置かせてもらうことにした。ロイヤリティーは売り上げの10%を支払うことにしている。来年は1000俵を販売する計画を立てている。
もちろん課題もあるが、夢は子供が継ぎたくなる事業にすることと少ない面積でも経営出来る稲作農業を確立、そのノウハウを新たに就農する人に5年以内に提供、鷹栖町を第二の魚沼にしたいと述べた。
この会合はごく私的なものであったが、参加者はミカンのブランド化戦略を成功させた農協の組合長、農協改革のコンサルタント、清酒のベンチャー企業、大手マスメディアの論説委員など多彩で、その中に稲作農家2社がいた。1社は有機米を中心に40種類もの変わり種のコメを生産、徹底的な付加価値戦略を経営の柱に据えている農業法人の経営者と、もう一人は大規模経営を推進、ラジコンヘリによる直播など低コスト稲作を推進する経営者という真逆の2人。先輩農家として実践的なアドバイスをしてくれ、Hさんも何度も質問をするなど有意義な時間になった。その途中、大規模稲作経営を行っている農家が参加者全員に向かって「日本の稲作の将来をどう思うか」意見を聞きたいと発言した。
◆生産者は安売りしてはいけない
発言した大規模稲作生産者は、自社の地区の稲作農家の平均年齢は78歳で、離農が進み耕作放棄地が急拡大することは目に見えているが、その地区には担い手になるべき農業法人が自社を含めて3社しかなく、離農者の面積を引き受けるには限界があるとし、コメの生産基盤がぜい弱化、供給不足が起きるという見解。こだわり米の生産者も「5年後にはコメ不足が起きる」という予想を述べた。では、どうやったら稲作農家が経営を継続、さらに魅力ある事業として新規参入者が増えるようにするのか?
意見が一致したのが「生産者自身が自らの生産物を安売りしてはいけない」と言う点。ブランド化に成功した組合長は徹底したブランディング戦略で通常のミカンより3倍の価格で売ることに成功、年商100億円に達している。こだわり米生産者も通常のコメより約2倍の価格で販売しており、そうしたコメを評価してくれる買い先を徹底して探している。低コスト稲作に力を入れる大規模農家も自社の販売先は95%まで業務用だが、流通業者の納入価格よりキロ当たり30円から50円高く設定している。
彼は「安売りは流通業者がやる分は良いが、生産者がそれをやってはいけない」と言った。
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